徳本修一が野菜をつくるまでの話(7)

TREE&NORF代表の徳本修一のインタビュー記事を「なぜ農業を始めたのか?」というテーマのもと、10回に渡って連載するこの企画。本日は第七回です。

鳥取のおいしい有機野菜 TREE&NORF 代表 徳本修一
TREE&NORF代表 徳本修一

  1. 消防士になって、消防士を辞めるまで
  2. 東京での暮らし(前編・芸能界に入るまで)
  3. 東京での暮らし(中編・芸能界に入ってから)
  4. 東京での暮らし(後編・結婚して子どもができた)
  5. 東京から鳥取に引っ越し、わったい菜を創業
  6. わったい菜で奮闘した5年間(前編)
  7. わったい菜で奮闘した5年間(中編)
  8. わったい菜で奮闘した5年間(後編)
  9. TREE&NORFを創業、本格的に農業の道へ
  10. BLOFに出会って。そして徳本、大いに語る

前回は、わったい菜についてとにかく無計画に突っ走った。その象徴として、オリジナル商品の「生姜のコンフィチュール」のエピソードの紹介がありました。

もう一つの大きな問題は、「コダワリ」ですね。

わったい菜で言うと、「鳥取県産」とか「農薬・化学肥料不使用」とか「食品添加物不使用」とかだよね。

まあ、そうですね。それが僕たちがこだわっていた部分でした。このコダワリには、お客のニーズに応えるという側面と、他社との差別化という側面があります。前者なら「栽培に農薬を使用していない野菜が欲しい」というニーズを満たしますし、後者なら「他社が販売する慣行栽培(*)の野菜と差別化できる」ということになります。

分かるよ。でもどうしてそれが問題になるのかな? 何となくポジティブな印象だけど。

わったい菜は食品の通販サイトなので、商品は食べ物です。いくら安全な方法で生産、栽培された食べ物だからと言って、美味しくなければお客はリピートしません。

そりゃそうだ。

つまり、購入動機としては僕たちのコダワリも評価されますが、商品の最終的な評価は、やはり味なんです。価格が少し高かったり、お届けまでに時間がかかっても、本当に美味しければお客は評価してくれます。しかし美味しくないと、他の点は問題なかったとしても、食品としての価値は一気に下がってしまいます。

コダワリが強いことによって、逆に美味しくなくなった商品があった、ということかな?

あ、いえ、そうではないんですよ。分かりやすいのは、松葉ガニです。僕たちが提案していたのは、水揚げ後、すぐに茹でられたものか、生きたままのものか、いずれかだったんですね。つまり死んだカニを茹でたり、冷凍保存のカニを売ったりはしていなかったんです。

やっぱり、それが一番美味しいからね。

これは「コダワリ」と「美味しさ」が結びついていますよね。なのでお客からの評価も非常に高い商品でした。

うんうん。

鳥取のおいしい有機野菜 TREE&NORF 徳本修一が野菜をつくるまでの話(7)
鳥取県の冬の味覚を代表する松葉ガニ。わったい菜でも高い人気だった

問題はこの先で、松葉ガニは11月初旬から翌年の3月末までおよそ半年間、水揚げされますが、一番売れるのはやはり年末です。お客は松葉ガニをどういう目的で買うかと言うと、年末に家族が帰省した時にみんなで食べたいとか、ちょっと特別な食事での利用です。食べたい日時がしっかり決まってるんです。しかし、年末、冬の海は時化やすい。時化ると漁に出られないので、松葉ガニも水揚げされません。

お届け日は決まってるのに、海が時化たら、送るべき松葉ガニが水揚げされず、発送できないってことか。

そうです。だから受注は非常に保守的な数字に抑える必要がありました。たくさん受注して、もし海が時化たら出荷できないわけで、わったい菜で買った松葉ガニで年末の特別な食事をしようと考えてくれたお客の期待を裏切ってしまうことになります。

なるほど。要するにその商品に関するコダワリは、味の良さにつながると同時に、売り上げの拡大を難しくさせてたということなんだね。

そうです。松葉ガニに関して言えば、ある程度の規模まで拡大できれば十分な利益が出る、その規模まで拡大しようと思えばできるのに自ら制限しなければいけない、という状況でした。利益が出なければ事業は継続できませんから、このコダワリには商売としては意味がない、ということになってしまいます。

諸刃の剣なわけだ。

ただ、松葉ガニのコダワリは、お客の利益、つまり美味しさにつながっていたわけで、最低限の意味はあったと思います。

最低限の意味もないコダワリもあったと?

そうですね。例えば「鳥取県産」というコダワリなんかはそうかなと。

「鳥取県産」という条件で、美味しい食品を探している人はいないと。

いないことはないと思います。例えば、鳥取県出身で現在は県外にお住まいの方が、「大切な人に自分の故郷の美味しいものを贈りたい」と思われることもあるかと思います。または鳥取県在住の方が県外に県産品を贈りたいといったニーズですね。実際にたくさんのそうした方が利用してくださってました。ただ、そのニーズだけで成り立つビジネスではなかった、ということです。

むしろ、鳥取県内で生産・栽培されたものから取り扱う商品を選ばなければいけないわけで、自分たちの選択肢を狭めてしまう結果になっていたと。

その側面があったことは否めませんね。「鳥取県産」と謳うだけでなく、やはり「鳥取県じゃないとない、あるいはわったい菜でなければない、ヨソにはないもの」、そして「美味しいもの」とならなければいけない。

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人気商品だった「大栄『侍』スイカ」は、農薬を使わず栽培された希少な大栄スイカ

鳥取県の内側からすれば「鳥取県産のものをPRしてくれて、いいねえ、がんばってるねえ!」となるんだろうけど。

ビジネスを成立させるレベルでお客のニーズとマッチしなければ、コダワル意味がない。最初に出た「農薬・化学肥料不使用」とか「食品添加物不使用」といったものも、結局のところ、珍しいコダワリではない。「鳥取県産」で差別化できるわけでもない。となると、見栄えや価格、お届けの早さといったネット通販で重視されるポイントでの勝負が大きくなってきます。

そうなると、もはや「わったい菜」の独自性というのは何なのか?という話になってくるね。

それで、前回のオリジナル商品の話にもつながってくるわけですが、上手く行かなかったのは話したとおりです。

ただ、肉、魚貝、米、野菜、果物、加工品、お酒など幅広いカテゴリーで、ある程度のこだわり=高い選定条件を満たした商品を展開してたわけだから、それを強みに変えることはできなかったんだろうか。

もちろん、それについては注力しました。例えば夏のBBQ用に、焼肉、アワビやサザエといった魚貝、干物、野菜やビール、こうしたものが一まとめになって届けば便利だし、提案としては良いだろうと。

いいんじゃない?!

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わったい菜で提案していた「美しき鳥取の海と山の恵み BBQセット」

ただ、わったい菜の場合、ドロップシッピングといって、受注した商品を、生産者から消費者に直接送る方式をとっていたので、先の例を実際にお客に送るとなると5小口になって届くことになるんですよ。

5小口かぁ、ちょっとウザイかもね。

5小口全部に送料がかかると、送料だけでとんでもないことになるんで、それぞれを送料無料の商品にしなくてはいけない。となると商品単価が高くなってしまう。でも、本来のまとめ買いの良さって、個々に買うと送料かかるけどまとめて買えば送料無料、しかもちょっとお買い得、みたいなところじゃないですか。

そうだね。

いろいろ試行錯誤したり、商品化して提案したんだけど、ほとんど売れませんでした。商品としてはとても良いものだったと思うんだけど……。

商品を集約して保存しておける配送センターみたいなものがあればね。

それも考えたんですが、わったい菜の物流量では非現実的なアイディアでした。しかし、じゃあ配送センターじゃなくて、小売店の機能を持った施設ならどうだろう? と考えたんです。

いよいよ、悪名高い八百屋わったい菜の登場だね。続きます。

  1. 消防士になって、消防士を辞めるまで
  2. 東京での暮らし(前編・芸能界に入るまで)
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  10. BLOFに出会って。そして徳本、大いに語る

* 慣行栽培とは普通一般に行われている栽培方法。日本で普通一般に行われている栽培方法は、化学肥料を使い、農薬と言われる化学物質を使い、病害虫の防除を行う栽培方法。一般に世界中で広く行われている(出典:JAさが


和多瀬 彰

TREE&NORFのWEBサイト、印刷物などの制作を担当しています。趣味はキャンプと読書。最近、初めての子どもが生まれ、バタバタな毎日を送っています(詳しいプロフィールはこちら)。

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