「子どもが野菜嫌いで何が悪い!」幕内秀夫
世の中のお母さんの持つ悩みに「子どもが野菜を食べない」というものがあります。
「一人でも多くのお母さんと子どもたちに、安全で美味しい野菜を届けます。」を目標に野菜づくりをしている僕たちにとって、これはスルーできない問題。僕たちの野菜を一番食べてほしいと思っている人たちが、食べてくれないなんて!
「野菜嫌い 克服」などのキーワードをネットで検索すると、専門家の様々な提案や、多くの悲喜交々な体験談を読むことができます。実際、多くのお母さんが悩み、苦労しているようです。
ところで、「野菜を食べない」ということで悩む、ということは、「食べる必要があるのに、そうしてくれないから困る」ということです。野菜を食べる必要がなければ、克服するべき問題でなければ、そもそも、それを気に病む必要はありませんから。
でも、
子どもも大人と同じように野菜を食べるべきか?
この疑問を持った時にちょうど出会ったのが、この書籍でした。
「子どもが野菜嫌いで何が悪い!」
幕内秀夫
- 子どものための食事は必要ない
- 野菜だけは子どもの好みに任せなさい
- 子どもに野菜を無理に食べさせるな
- 「バランスのとれた食生活」が子どもを病気にする
- 子どもの食生活が危ない
- 大人と子どもの食生活はちがう
- 見直したい子どもの食生活
「子どもの野菜嫌い」に関する世の中の情報の多くが、それをいかに克服するかについてであるのに対して、幕内秀夫氏の論は180度逆。
つまり「子どもは野菜なんて食べなくていい」という、過激なものです。
以下にこの本の論旨2点をまとめてみました。
子どもの食の嗜好は本能に従っている
以下の表は、食品メーカーが調査した「子どもの好きな野菜、嫌いな野菜」それぞれの上位5つを表にしたものです。
好きな食べ物 | 嫌いな食べ物 |
---|---|
さつまいも | ピーマン |
えだまめ | 水菜 |
じゃがいも | なす |
とうもろこし | オクラ |
トマト | ねぎ |
出展:書籍より。子どもの野菜摂取に関する調査報告書(カゴメ株式会社 平成20年8月)
好きな食べ物にランクインしているものは糖質(炭水化物)を多く含む、いも類、豆類、穀類。つまり食べた時の満足度が高く(満腹感)、すぐにエネルギーになるものばかりです。
他方、嫌いな野菜にランクインしているものは、総じて緑色をしています。自然界にある食べ物の多くが、まだ成熟していない状態では緑色をしているため(書籍内では例として、バナナ、いちご、さくらんぼ、トマト、米、麦などが挙げられています)、これを本能的に察知しているからではないか、と著者は推測しています。
味に関しては苦味や辛味などの刺激を持つものも多く、色と同じ理由で本能的に忌避している可能性があると指摘。
そして、これが最大の理由ですが、これらの野菜は「食べなくてもいい(食べないことによる害がない)から食べない」という指摘です。
僕も幼い頃は好き嫌いがとても多かったのですが、大人になった今は、自然と何でも食べられるようになりました。以前は嫌いだった食べ物が美味しいと感じられることに(小さな驚きとともに)喜びを感じましたし、そう考えると、何でも食べられた方が確かに人生、幸せかも知れません。
しかし、かぼちゃが大嫌いな友人は「かぼちゃを食べられないことが不幸だと思ったことは一度もない」と断言していました。かぼちゃはこのランキングには含まれていませんが、彼はそれによって大きなハンディを負ってはいないようですし、もしかすると僕のように、いつか美味しいと感じるようになるかも知れません(彼は年齢的には十分な大人ですが)。
今必要ではない野菜を無理やり食べさせることに腐心するよりも、子どもたちが美味しいと思えるものをお腹いっぱい食べて、お父さんとお母さんと子どもが一緒に食事を楽しむことのほうがよほど大切だ。
著者は、そう主張しているわけです。
情報に惑わされ過ぎている
現代は情報があふれていて、先に書いたように、ネットで検索すれば様々な情報を得ることができます。
昔は重要視されていなかったものが実は大切なことだった、気にしていなかったけど実は健康に良かった/悪かった、といった発見は世界中で毎日のように確認され、一瞬のうちにその情報は伝達されます。
例えば、最近は「コーヒーを1日X杯以上飲む人は将来ガンになる確率が低くなる」といったニュースが話題となりましたよね。
参考記事:国立研究開発法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター
さて、この情報を得た人で、それまでコーヒーを飲んだことがないのに翌日から飲み始めた、という人が世の中に何人いるでしょうか。きっと、それほど多くはないのではないでしょうか。その中には、もともとコーヒーが苦手で、美味しいと感じない人も多いはずです。
子どもの食事についても、 5色揃えた栄養バランスが重要だとか、手づかみで食べるのが良いとか、1歳までに多くの野菜を食べさせないと将来野菜嫌いになるとか、様々な情報が飛び交っています。
コーヒーに関する最新情報を自分の食生活には適用しなかった親が、子どもの食に関するそれは適用しようと、その日から必死になります。仮にその情報が真実だとしても、子どもは理屈では動きませんので、激しい戦いが食卓で繰り広げられることになります。
そして、その情報やニュースは、いつか書き換えられたり、間違っていたと判明するかも知れません。
まとめ
以上が、この書籍を読んで僕が論点だと思った内容です。お母さん向けに書かれているので、学術的・科学的ではなく、平易な表現でとても分かりやすく書かれています。
僕にとってはそれが物足りなさを感じさせるものでしたが、もし「子どもが野菜を食べない!」とお困りでしたら、一読されてみてはいかがでしょうか? 「食べなくてもよい」というマイノリティ(少数派)の意見に耳を傾けてみるのも良いかも知れません。
僕の子どもはまだ生まれて数か月で、おっぱいしか飲みませんが、もうじき離乳食が始まります。来年の今頃には「なんで野菜を食べないの!」と悩んでいるのかな?(笑)
母乳やミルクしか飲まない子どもに野菜を食べることを期待しないのは当たり前としても、離乳した子どもに対して、早期から大人と同じ内容の食事をとることを期待してしまうのは何故なんでしょうね。
おっぱいから始まり、何でもござれの大人の食事まで。「ひとの食」は、体の成長や食体験とともに確実に変わっていくはず。ピーマンの苦味やねぎの辛味を「美味しい」と感じる日がいつかやってくるのを、毎日の食事を家族みんなで楽しみながら待つのが正解なのかも知れません。