太陽熱養生処理を実施!結果まとめ
徳本です。
先日、2016年のじゃがいも栽培に関するまとめ記事を共有しましたが、昨年、それと平行して実施していたもう一つの重要な作業である「太陽熱養生処理」についても総括したいと思います。
太陽熱養生処理とは
BLOF理論における太陽熱養生処理とは、夏季に、微生物の餌が多く残っている中熟堆肥(C/N比25と高め)と、カルシウム・マグネシウム・鉄・マンガンなどのミネラルを適正量に対してプラス20%を施肥、ほ場の土壌水分を60%を目安として灌水したうえで、積算温度が900℃を超えるまで透明ビニールマルチを施用するという作業です。
実際の作業の様子は「秋に向けての土壌改良作業」にてご覧ください。
太陽熱養生処理の狙いと効果
太陽熱養生処理を実施する目的としては、1)土壌物理性の改善(土壌の団粒化、水はけの改良)、2)病原菌を熱で死滅させる、3)草の種を熱で死滅させる(雑草の抑制)の3つでした。
太陽熱養生処理を実施したほ場では、同作業が完了する8月末ににんじんを播種し、12月末に収穫する予定でした。にんじんを栽培するに当たっては、同作業によって、ほ場の土壌団粒化と畝に草が生えづらい状態になっていることが必要でした。
実際に太陽熱養生処理を実施した所感
ところが、一番期待していた土壌団粒が形成されず、むしろ硬くなったほ場もありました。また畝の表面に分解されなかった有機物がたくさん残ったため、当初予定していたにんじんの作付を断念し、大半のほ場を小松菜生産に切り替える必要が生じました。
具体的には、1.2ヘクタールのほ場に太陽熱養生処理を実施し、土壌団粒化が認められたのはそのうち0.2ヘクタール。草が少し抑制できたという印象ですが、物理性もそこまで改善せず、また病気も出るほ場もありました。
一部、上手く行ったと思われるほ場は、その後栽培したにんじん、大根に病気もほぼ出ず、生育状態も良好でした。
粒化がうまくできたほ場では見事な有機にんじんが収穫できました。が…
つまり、僕たちが僕たちの環境下・諸条件下で実施した太陽熱養生処理では、狙った結果がほとんど得られなかった、という結論です。
なぜ良い結果が出なかったのか
なぜ、太陽熱養生処理で狙った結果を得られなかったのか?
本来実施するべき、太陽熱養生処理後の土壌分析ができてなく、作業前の土壌分析結果との比較や、各ほ場の特徴などを踏まえた分析や評価ができていません。
隣合う、土壌の状態や水はけ具合や日当たりなどの環境がほぼ同じと考えられる2つのほ場で、一方は効果があり、一方は効果がなかったといったことも起きていますが、やはり理由は深く追求できていません。
このように、事後に実施するべき分析や評価、つまりPDCAの「C」の部分が正しく行えていないので、「なぜ、太陽熱養生処理で狙った結果を得られなかったのか?」の問いに対する自分たちなりの答えを出せていません。
しかしながら、僕たちとしては以下のように考え、新しい「P」を検討、すでに行動に移しています。
今後は基本的に、太陽熱養生処理は実施しないことに決めたからです。
太陽熱養生処理をしない理由
僕たちは大規模露地栽培を志向しているため、現在の潅水設備のない状態においては、土壌水分の適切な管理が必要となる太陽熱養生処理のマネジメントが不可能だと考えています。
例えば、太陽熱養生処理を実施したい8月に、期待したほど雨が降らなかった場合(2016年が実際そうでした)、簡易な灌水チューブのみで広大なほ場の土壌水分を整えたうえで、マルチングするというのはほぼ不可能です。
潅水設備がないため、人力で散水して土壌水分の管理を試みました。
堆肥の重要性
太陽熱養生処理に大量に使用する堆肥の調達、運搬、散布についても、作業効率や精度を考えると大型の機械化が必要なことが分かりました。しかし、その投資額を回収できるほど、太陽熱養生処理による土壌改良効果があるかどうかは、あらためて精査、検討する必要がありそうです。
施肥する堆肥づくりにも大型の重機が必要(今年は地元業者さんの厚意に甘えました)。
また堆肥は、大量にあればいいというわけではなく、元気な微生物を多く含み、大量に投与するミネラルをエサとして有機物を精力的に分解してくれるような良質な堆肥が求められます。そして高い品質を毎年保持することが必要です。
そうなると、堆肥づくりのプロのような存在が地元地域に必要になりますが、現時点で、僕たちはまだ巡り会えていません。
では、今後どうするのか
もちろん、土作りは1年で答えが出るわけではありません。毎年継続することによって改善を図る、長期的視座で計画するべき作業です。
しかし、理論通りの設計で実施するとオペレーションコストが大幅に上がること、それに対する費用対効果が現段階では非常に読みづらいことなどから、今後は、全ほ場に対しての実施は止め、必要なほ場に対して抑草目的のみで行う予定です。
作付面積が大きくなればなるほど、作業工程が一つ増えるだけで、人件費が増え、作業スケジュールが大きく変更することになります。手段ありき、ではなく、「なぜその作業を行うのか?」という目的に立ち返り、手段を今一度整理して、極力少ない工数で目的を達成すべく、オペレーションを組み立てていかなければなりません。必要な資材と極力無駄を省いたオペレーションを現在計画しており、準備を進めています。
新しい計画については、また共有したいと思います。
確かに大規模にblof手法をするのは、私も難しいと思っています。楽農学校(兵庫県の新規就農者農業技術養成校)でblofを指導していますが、50m2の研修圃場では理論通りの結果が残せても、いざ自分の圃場(70a)では、なかなか思うようにいかないのが現実です。広い面積で結果を出されているbloferもいますが、トゥーリ&ノーフさんの規模では高知の山下一穂さんの手法があっているように思います。畑丸ごと堆肥化、自然農法とblofとの山下流合成です。徳本さんのチャレンジ、いつもたいへん興味深く見ています。是非、あとに続く人のお手本になって下さい。
コメントありがとうございます。
太陽熱養生処理による土壌改良は、諸条件がキッチリと整っていないと効果が得づらいことと、圃場基盤整備をしている圃場は作土の下に重機で転圧された真砂土などがあり、ここを微生物だけの力で砕いていくのは非常に難しいと実感しました。もちろんBLOF理論を否定するつもりはないですが、その土地その土地に応じてアレンジしていく必要があると感じています。また、植物生理の理解、ミネラル優先の考え方などは引き続き突き詰めていきたいと考えています。山下一穂さんの手法はFBなどでも拝見しており、今年は緑肥を活用した土壌改良も一部取り組んでみようと考えています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
有機栽培で大規模経営を実現させるためには太陽熱マルチと適当にイネ科やマメ科の益虫を集める帯を入れる必要があるように感じます。確かに潅水チューブや潅水設備を持つ事で労力が大幅に増える事になります。しかし、北海道や夏場ニンジンを出荷できる農家・あるいは徳島のように3月~6月出しのニンジン栽培以外では、潅水設備は必須だと感じています。日本中の多くの根菜類を栽培する大規模農家は6m~15m幅の潅水設備を持ち、初期の潅水や夏場に夜温を下げる為に畝を高くし、夜に水をあげるような工夫をしている農家もあります。
ブロフ理論にはもともと限界があるように感じています。生態系の事が抜けてる事と、土壌の中の構造理論も浅い気がしています。土は曲線で動く事が多く、プラス1入れても実際には0,2プラスだったりする事も多いです。これを確かめるのに土壌検査をしますが、はたしてその土壌検査があっているのかどうかは、わかりません。もともと、土壌検査の精度や検査方法に問題がある場合も多々あるでしょう。
太陽熱マルチ後に土の中にいる腐植食者・小動物を含める土壌動物達の動きが気になる所です。多くの場合、太陽熱処理の後に、一雨入れてから播種と言う流れが順当なのですが、これは土壌深くもぐっている虫達を、分散させたり、播種した作物の根を切られる可能性が高いので、それを緩和させる為でもあるかもしれません。タマネギの苗などは、根切り虫に多く襲われたりする例もあります。根切り虫を増やさないという大前提の圃場管理方法が重要なのですが、もし増えているのであれば、根切り虫を他の場所へ誘導するようなシステムを圃場内へデザインする必要があるように感じています。
太陽熱マルチと緑肥・太陽熱マルチと輪作・太陽熱マルチと堆肥と言うのは相性はいいように感じます。いずれにしても表層砂漠化現象が太陽熱マルチの最大のデメリットなので、腐植供給がポイントになってきます。水田デフォルト地や水はけが悪いような畑地では太陽熱マルチはお勧めできません。明渠を深く入れたり、排水性の確保の為、高畝などを取り入れてはどうでしょう。炭素が少ない畑地は、太陽熱マルチをするしない以前の問題で、大豆でさえ、過乾燥や加湿害に泣かされるように感じています。
有機栽培の本分は農薬を使わずに、虫害を防ぎ、化成肥料なしで野菜を大きくする。一般栽培のように圃場面積の99%を使いできるだけ多くの作物を収穫するような流れが有機栽培ではできないように感じています。その代わり、圃場の半分を使い、秀品率を高くし、一般栽培と似通ったコストにする事は可能かもしれないと感じています。
コメントありがごうざいます。
示唆に富む内容で、大変勉強になります。
昨年の経験を経て、今年は高畝マルチにて太陽熱養生処理を実施しています(今年の実施レポートは別途纏めて公開する予定ですので、その際はぜひご高覧ください)。
目的を雑草及び病害中抑制に絞り、透明マルチと黒マルチの2種類で実施して、経過を見ています。透明マルチより黒マルチの方が平均で約5℃地温が低いですが、土壌水分の保湿性が高く、また雑草抑制効果が高いように感じています。黒マルチは熱での種子死滅効果(夏場限定)と、発芽した雑草が光合成出来ないので芽が軟弱徒長し、それらが黒マルチを剥がした時に全て乾燥死滅する効果があります。もう一つ、黒マルチでのメリットとして、マルチ内の土壌水分が比較的に残っているので、剥がした直後に播種・転圧すると、降雨が無くても2日3日で発芽が揃うことが確認出来ました。夜間に転圧された畝上に浸透圧で土壌水分が上がって来ているのが要因だと推測しています。ちなみに黒マルチ施用は群馬で大規模に有機小松菜・有機ホウレン草を生産しているグーンリーフさんからご教示頂きました。
Naoさんがご指摘されているように、炭素が少ない痩せた畑、水はけの悪い圃場は、まずそこの改善が最優先されるべきかと思います。その観点からも緑肥での輪作体系はとても有効だと考えます。本当は良質の堆肥が近場で手に入れば活用したいのですが、現状まだそのロケーションが無いので、緑肥ベースでの土壌改良を今年から実施し始めています。
太陽熱養生処理による弊害として「表層砂漠化現象」というご指摘がありましたが、確かに夏場の強い太陽光と熱により表層は生物性の全くないパラパラの土になっているケースが多いですね。糸状菌・ウィルスも死滅すると同時にその他の有用菌の死滅と腐植分が枯渇している印象を受けます。BLOF理論でC/N比25以上の炭素率高めの堆肥投入を推奨しているのは、微生物の餌と腐植投入の目的があるかと思います。
太陽熱養生処理後に、「一雨入れてから播種という流れ~」が害虫分散効果があるという件ですが、これは非常に興味深いです。現在、太陽熱マルチを剥がしてすぐに播種をしていますが(発芽は非常に良好)、時々根きり虫の被害が発生しており、やはり土中から出てきているのだなと推測しています。