後編 – 産直ECが小規模農家を疲弊させる3つの理由

徳本です。

先週公開した記事「産直ECが小規模農家を疲弊させる3つの理由」は想像以上にたくさんの方々が読んでくださいました。ありがとうございます。

今回はその続きですが、最初に、先週の内容を簡単にまとめておきます。

  • 新規就農、有機・自然農法に関わらず、生産量や品質が安定しない本質的な原因は栽培技術不足である
  • 「情報(思いやコダワリ)が正しく届いていないから販路が開拓できない、野菜が売れない」は間違いである
  • 小規模農家の救い手として、日本農業の課題解決の担い手として「産直EC」が注目を浴びているが、今のままでは逆に小規模農家を(そのサービス自体をも)疲弊させることになる

当初の予定では、僕が考える日本農業の本質的な課題、「多過ぎる農家が日本の農業をダメにする」を公開する予定でしたが、たくさんの反響やご意見を頂戴しましたのでこれを変更し、本稿では「産直ECが小規模農家を疲弊させる3つの理由」について補足することにします。

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今回、特に重点を置いて説明したいのは、「栽培技術の大切さ」です。

忘れられない言葉

当社が創業初期から取引させていただいている、関西圏の有名高級スーパーのベテラン青果バイヤーの忘れられない言葉です。

「ウチは全国から色んな生産者が売り込みに来る。でもな、俺は生産者の言うことは絶対に信用しない。まずはモノ(青果)ありきや。モノがショボいのに能書きばっか垂れてもしょ〜がないやん。徳ちゃんえぇか、ちゃんとえぇもん作らんとお客さんつかへんど」

「えぇもん」を作るには、何が必要なのか。

10年近くとずいぶん時間をかけて遠回りしてきましたが、確かな答えを得ました。

技術です

誰の目にも触れず売れる仕組みの落とし穴

産直ECは、小売店にはないマーケティング、使い勝手のよいWEBサイトやアプリなどを介して、野菜などの食品にストーリーや安全性を求める消費者と生産者をマッチングします。販路が少ない、生産量や品質が安定しない農家でも収入を得やすいサービスです。

既存の流通と異なり、生産者と消費者の間に市場や仲卸、小売店など複数の中間業者が存在しないことも特徴です。

産直ECには一見、何の問題もなく、むしろ中間業者が多数存在する既存流通にこそ多くの問題があるように見えますよね。

しかし、産直ECは多くの場合、生産者の栽培技術や法律に関する知識の有無、生産物の品質や安全性の客観的な評価・確認がないまま出品されます。

農家から消費者まで、つまり栽培・収穫から消費までの過程で、第三者の目に触れることなく野菜が届けられることは、消費者のみならず生産者にとっても無視できない負の側面があります。

市場外流通の巨人「生協」は、長い年月をかけ、全国の産地、生産者との流通網を構築してきました。

生協は、生産者と消費者を繋ぐ場を供する者としての責任に基づき、生協GAPというGAPに準拠する衛生管理やトレーサビリティについての厳格な審査を毎年、現地で行います。品質管理に関する少なくない書類の提出も求められます。

僕たちもこれまで何度も大手生協と取引きしてきましたが、生協GAPは、生産者が考える以上の厳格さで実施されています。

オイシックス(現 オイシックス・ラ・大地)の高島社長も「Amazonが日本で有機野菜販売に参入するなら、(既に全国の有機農家とネットワークを構築した)ウチを買収するのが手っ取り早い」と豪語しましたが(*1)、その日本全国3000の契約農家は、一定の基準をクリアしたプロ農家ばかりです。

しかし、誰もが最初から十分な技術や知識を持っていたわけではありません。

長年目利きをしてきた青果バイヤーや生協、JAや市場といった「生産者、消費者、流通を俯瞰でき、厳しくも的確な評価基準を持つプロ」のチェックを継続的に受けることで、実は生産者の技術や知識、意識も向上していきます。

もちろん、技術や知識を向上させる方法は他にもたくさんあります。しかし、「野菜の買い手が要求する品質や安全性の基準を”継続的”に満たす」こと以上に、学びや経営に直結するものはありません。満たせなければ、収入はないわけですから。

自分のコダワリに正直に、思いを込めて栽培した野菜を、その苦労や背景にある物語をわかちあえる消費者に、しがらみも障壁もなく販売する。素晴らしいことかも知れません。


僕たちも、都市部や地元で開催されるマルシェに何度も参加してきました

しかし今後、様々な情報がオープンになり、そこに誰もがアクセスできる時代がやってきます。だからこそ、技術と知識が不足する農家は(しかも小規模であればあるほど)早晩、疲弊し、離農していくことになります。

後ほど触れますが、僕は技術こそが、野菜という食べ物で消費者を満足させ、幸せにするために必要な唯一のもの、と考えているからです。

既存流通は時代遅れか

さて、上記の図にあった「産直ECの流通は、既存の流通より優れている」という点についても簡単に触れておきたいと思います。

トウモロコシ(2L)を12本、一般市場に卸した場合と、産直ECで消費者に直接販売した場合とで試算してみましょう。

一般市場 産直EC
生産者の手取り 960円
(1本あたり80円)(*A)
1440円
(1本あたり120円)
中間業者の
手数料
86円
(手数料9%)
480円
(手数料15%)
送料 200円
(1本あたり20円)(*B)
1283円
(*C)
販売店利益 44.4円
粗利益率30%
– – –
売価
(消費者負担額)
148円
(1本あたり)(*D)
3200円
(1本あたり266円)(*E)

補足
*A 2019年に僕たちがトウモロコシを栽培し、出荷した際の平均的な価格。
*B 一般流通の送料:100サイズの段ボールを鳥取県から関西圏にチルドで出荷した場合の輸送費。
*C 産直ECの送料:トウモロコシ 2Lサイズ(350〜400g)12本を100サイズの段ボールに入れ、チルドで出荷、鳥取県から大阪府まで輸送した場合。
*D 小売価格は鳥取県では128円前後が主流だが、やや高めに設定。
*E 一般市場の1.5倍で計算した「生産者の手取り」から積み上げた価格。実際には同内容の商品は、4000円以上の価格で販売されていることが多い印象。

一般市場の流通(既存流通)は、膨大な量の野菜を定期的に輸送するため、スケールメリットが最大化し、ロジスティックにかかるコストが限界まで押し下げられています

一方で、産直ECのように生産者と消費者が直接取引きする場合、送料は高くなりがちです。

上試算では、既存流通に比べて産直ECの送料は5倍以上かかっています(その多くは、消費者負担です)。

もちろん今後、物流革命が起こる可能性はあります。既存流通並のコストで、生産者から消費者に直接、チルドで、通年安定して野菜を届けられる時代がやってくるかも知れません。

では、野菜を収穫し、出荷するリソース、コストについてはどうでしょう。

単一品種の野菜を収穫、出荷調整して出荷する作業と、さまざまな種類の野菜を収穫し、個別の注文ごとに野菜を仕分け箱に詰めて出荷する作業。僕たちも経験してきましたが、必要なリソースやコストは天と地ほど違います。


昨年まで、輸送コストを下げるため、1日に数百ケースの小松菜を出荷していた

また、既存流通の場合、基本的にまとめて収穫し、全量買い取りで出荷します。葉物野菜などは収穫適期が非常に短く、特に露地栽培では天候の影響を受けてそれが前後します。この不安定さを全体で吸収し、最適化するのが既存流通の役割なのです(*2)。

一方、産直ECは受注販売のため、小口の注文が紐づいています。野菜の生育状況は、必ずしも出荷内容と一致するわけではありません。天候その他の状況に左右されやすい農産物を、日々の注文に合わせて栽培・出荷し、ロスもできるだけ出さない。これには、高い技術や体制が必要です。

ちなみに、上記試算では一般市場の生産者手取り額に対して、産直ECのそれを1.5倍に設定して計算しています。生産者が価格を自由に決められるのは産直EC最大の特徴であり、生産者にとって大きなメリットですね。ただし、市場は全量買取、産直ECは売れるかどうか未知です。

技術によって野菜がどれほど変わるのか

野菜にとって、適地適作、旬、鮮度が最も重要であることを前提に、技術が大切である理由を、いくつかの例で説明したいと思います。

えぐみを少なくし、甘みを増やす技術として「意図的に行う窒素同化」があります。えぐみの元となる硝酸(HNO3)を糖(C6H12O6)に変えるための肥培管理の一つです。


「窒素同化」を実施する前と後の、小松菜の硝酸値(*3)

葉物野菜は硝酸がたまりやすいので、食味を上げることに加え、棚持ちをよくする目的で実施します。子どもでも食べやすくなり、小売店からも喜ばれます。

棚持ちについても触れておくと、有機・自然農法に取り組む農家たちの「慣行栽培の野菜はすぐに腐るが、有機・自然農の野菜は腐りにくい」といった発言を時おり、耳にします。これは栽培方法の違いではなく、植物内の硝酸態窒素量、カルシウム(Ca)やホウ素(B)欠乏などが原因です。つまり、腐りにくい(棚持ちのよい)野菜をつくることは栽培技術次第なのです。

逆に、技術によって野菜のクセを引き立てることもできます。

レストラン向けの野菜の場合、素材そのものの個性が重視されます。香りや辛みに特徴のある野菜は、そのもとになっている植物の必須元素(硫黄(S))を含む有機硫黄化合物に着目します。例えば、大根やマスタードはアリルイソチオシアネート(C4H5NS)、ネギや玉ネギは硫化アリル(C6H10S)ですが、依頼主が求める味に近づくように肥培管理をアレンジします。

肥料や農薬については、観察によって葉色や葉脈、葉の展開、節間、根の張りなどから野菜の生理状態を把握し、病気や生理障害の予兆を察知することで、その使用量を根拠を持って決定するので、第三者にもきちんと説明できます。

上の写真は、データに基づいた肥培管理で栽培した当社の小松菜圃場です。生育が揃っているので全て一度に収穫でき、秀品率が高いためロスが少なく、出荷調整も楽、一度に出荷できる。ゆえに、これらにかかるコストが圧縮できるわけです(*4)。

コダワリや思い、手間ヒマではなく、科学や事実に基づいて、いかに野菜たちを健康に生育させてやるか。そこにかかるリソースをどれだけ減らせるか。ここが圧倒的に重要です。

もちろん、コダワリや思い、手間ヒマかけて野菜を育てることを全て否定しているわけではありません。

ただし、僕の考えでは、野菜の栽培における手間ヒマやコダワリといったものは、自己満足を刺激するものです。ですから、家庭菜園や都市近郊の体験農園といった趣味で野菜を育てる場合は、それらが楽しさや満足感、コミュニケーションのキッカケになることもあり、重要な要素の一つだと思います。

しかし、職業(プロ)としての農業は違います。

くどいようですが、土台となる技術なくして販路だけを与えられても、農家は生き長らえることはできません。農家が生き残るためには、ニーズに合った美味しい野菜を安定的に継続して生産していかなくてはいけません。それには技術が不可欠です。

科学的視点のない農業技術論は、僕から見れば全て観念論のようなもので、そこからは次世代へ引き継ぐべき、持続可能な生産技術は生まれてこないのです。

– – – – –

さて、来週は僕が最も伝えたかったテーマ、日本農業の本質的な課題への提言となる「多過ぎる農家が日本の農業をダメにする」を公開します。それは戦後確立された農業システムから起因する構造的な問題でもあります。

*1 日経ビジネス 「対アマゾン、オイシックスドット大地が睨む勝機
*2 もちろん、既存流通が完璧とは思ってはいません。時代の変化に合っていないと思う点や改善すべき点はあると感じていますが、これについてはまた別の記事で。
*3 試験している小松菜ではありませんが、ほうれん草の場合、一般的な硝酸値は3560±552です(出典:農林水産省HP)。
*4 残念ながら、毎回このように栽培はできませんでした。台風や干ばつ、爆発的な病気や害虫被害による壊滅などを何度も経験してきました。

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徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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2件のフィードバック

  1. 山本 亮 より:

    技術という言葉は、つまり薬剤や肥料的なものを指すのですか?
    数値を下げれる薬剤みたいなものがあるということでしょうか。

    • 徳本 修一 より:

      農作物を健康に育てる為の栽培技術全般のことを、「技術」としています。機械体系、肥料や農薬資材、それらを使用するための知識、野菜の観察眼など含めた管理技術のことです。数値を下げる薬剤というものはなく、硝酸値に関しては、まずベースとなる土づくりがあり、その後生育状況を見ながら、状況に応じて植物の光合成を手助けするための肥料資材を意図して使用します。

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