大馬鹿野郎の声を聞いてくれ

徳本です。

2月に公開した記事、「産直ECが小規模農家を疲弊させる3つの理由」(前編後編)と「多過ぎる農家が日本の農業をダメにする」の3つの記事。

タイトルはやや過激ではあったものの、仮想敵を設定して批判したり攻撃することが目的ではなく、様々な立場にいる方々と未来志向で議論したり意見を交わすこと。これが、2つある目的のうちの1つでした。

結果として、Facebookやツイッターを中心に多くの議論を生み、また僕自身にも多くの意見が寄せられ、当ブログにもコメントをいただきました。また幾つかのアンサーブログやネットラジオも投稿、公開されました。

これはものすごく嬉しかったですね。

3つの誤解

ただ、3つの記事で僕の意図全てを正しく伝えることはやはり難しく、誤解を生んでしまいました。

同じテーマで新たに記事を投稿することにためらいを感じつつも、そのままにしておくべきではないと判断した3つの誤解について、簡単に説明します。これが本当の最終稿。

1.大規模農家は小規模農家より優れている

(どこからが大規模で、どこからが小規模なのかの明確な定義がないので、それはひとまず置いておいて)

僕たちトゥリーアンドノーフは大規模化を志向してはいますが、事業としての農業において、耕地面積の広さ(規模)によって優劣が決まるとは全く考えていません

3つの記事で繰り返し書いていたことは、規模は違っても絶対に必要なのが、栽培技術と、これを礎とした確かな農業経営力です。

十分な品質と収量を生み出す技術、且つ高い作業効率性と生産性を実現し、自分や家族、従業員が豊かに暮らしていける利益を得ることができれば、耕地面積の広さは関係ありません。

2.小規模農家が減少すると農業の多様性は失われるか

多様性という言葉は幅のある言葉で、簡単な説明が難しい。人によっても解釈や想像するものが異なるのではないでしょうか。

農業に当てはめて考えてみると、多様性の対象となるのは、栽培される野菜の品目、農地や売上の規模、地域性(都市部、平野部、山間部)、栽培手法や農法、流通や販売のチャネル、農家の性別やLGBTなどのジェンダー、健常者や身体障害者、農家の生き方(スタイル)……などなど、たくさんありますね。

では、小規模農家が減少した場合、このうちどの要素が消失し、多様性が失われるのでしょうか。

僕の独断と偏見ですが、おおむね以下の2つについて語られているのではないかと思料します。

  • 野菜の品目の多様さ
  • 農家のスタイルの多様さ

この2点について、僕の見解を述べます。

野菜の品目の多様さ

統計上、国内で把握されている野菜は約90品目です。

キャベツやほうれん草、ナス、トマト、大根、ニンジンのようなコモデティ野菜「指定野菜」が14品目、小松菜やアスパラガス、ブロッコリー、かぼちゃ、枝豆、ごぼうなど指定野菜に準ずる重要な野菜という位置づけの「特定野菜」が35品目、「その他特産野菜」(ニッチ野菜)の43品目がそれです。

これらの野菜には当然、多くの品種があり、地域ごとに作型や特徴も変わってくるので、90品目といえど多様さはかなりのものです。

出荷量を見てみると、「指定野菜」と「特定野菜」の49品目で全体の95%を占めており、残る5%が「その他特産野菜」です(*1)。

大規模農家が増えてくると、指定野菜や特定野菜ばかりが流通し、ニッチ野菜が食べられなくなると懸念されている方がいるかも知れませんが、おそらくそうはならないでしょう。

大規模農家が増えてくると、逆に、小規模農家だからこそできること、強みや特徴がより明確になります。大規模、小規模それぞれの戦略を持ち、強みを生かした品目・作型を選定することになるはずです。

結果として、品目の多様性は維持されるというのが僕の考えです。

農家のスタイルの多様さ

もう一つの多様性、「農家のスタイルの多様さ」についてはどうでしょうか。

一例を挙げます。

車椅子を利用する足が不自由な身体障害者が、農家で働きたいと考えたとします。田んぼや畑には立てないし、トラクターに乗るのも難しいかも知れませんが、事務処理能力を活かしたデスワークや、座ったままでもできる出荷調整作業を担当してもらえるかも知れない。

こうしたケースで多様性を受け入れることができるのは、しっかりと利益を上げていて、且つある程度規模の大きな農家や農業法人ではないかと想像します。

自分のアイデンティティを大切にし、生き方・在り方を意思決定できる社会的多様性は、都市部に比べると地方はそれほど広がっておらず、農村ともなるとより保守的です。

地方の農村における風習や文化は、外から見ていれば守っていくべきものと思えるかも知れませんが、そこに住んでみると、画一的で、息苦しさを感じる不文律がその土地をべったりと覆っています。

少し前に、リタイア後のスローライフを夢見て地方都市に移住してみたらゴミを捨てさせてすらもらえず大変苦労したという記事(*2)が話題となりましたが、多くの農村は、そこが住むだけでなく仕事の場として存在する以上、厳しさは比になりません。

そこに、現代で大切にされている多様性は存在するのか。実際にそうした地域で生活している者として、疑問を感じることも多いです。

3.農家はこれまで価格決定権を持っていなかったのか

これは僕の記事が生じさせた誤解というわけではありませんが、読まれた方から「これまで農家は、価格決定権を持っていなかった。産直ECは農家にそれを与え、消費者やマーケットと繋いでくれた」といったご意見がありました。

しかし、農家は自分の野菜の価格決定権を、また消費者やマーケットと直接繋がる場を、産直ECが登場するずっと前から持っていました

例えば、農産物直売所です。

2015年の調査でも、農産物直売所(以下、直売所)は2万3590店舗、流通額1兆円を生み出しています(*3)。


鳥取市賀露町にある産直市場「地場産プラザわったいな」(画像出典:JAグループ

直売所での値付けは、全て生産者の仕事です。委託販売なので、廃棄を含めたリスクも生産者が負います。

セミリタイヤ後に趣味で野菜づくりをはじめた農家の格安野菜が多く並ぶなか、高い品質や時期をずらした作型など、商品力とマーケティング力で、しっかり稼いでいるプロ農家も多数存在します。

直売所を訪れる消費者と生産者が声を交わし、野菜についての意見や感想を直接聞いたりするなど、コミュニケーションも盛んです。

直売所では、地域色のある地産地消のエコシステムが構築されているわけです。

また、市場出荷やJA出荷においても、品質と安定的な出荷などで信用を得ることができれば、相対取引で値決めするケースも少なくありません。

強い産地は長年、価格決定権を維持しています。各産地にはJA系統含め、産地品目ごとに生産者部会=農家の集合体があります。つまり、農家が自分たちがつくる野菜の価格を決定しているんですね。

沈黙する農家たち

今回、このような記事を公開した2つの目的の残りの1つは、純粋に、僕という農家の声を伝えたかった、というものです。

農業に関する声は、政治から生産者、消費者のものまで、テレビや新聞、雑誌、インターネットメディアなどで毎日のように伝えられていますが、僕から見て、非常に偏っていると感じていました。

僕はSNS上での繋がりはもちろん、技術研鑽と情報収集、ネットワーク拡大のために、日本だけでなく海外のプロ農家のもとに、時間を見つけては足を運んできました


上から「野菜くらぶ(群馬県昭和村)」、「TANIMURA & ANTLE(Salinas Ca)」、「イカリファーム(滋賀県近江市)

彼らの持つ栽培技術や農業経営力、植物生理や肥料・農薬に関する膨大な知識、国内政治の動向や世界の潮流を見極める能力には、学ぶべきところが多いです。

全体の農家数の1割にも満たないが農業GDPの7割以上を占める、つまりこの国の農業を支えている彼らプロ農家は、しかし多くを語りません。

流通している情報が実情とは違っていると感じていても、彼らは黙々と、粛々と自分たちの仕事するだけです。情報発信は彼らの仕事ではないからです。

しかし、これからの時代は、日本の農業のあるべき姿や進むべき方向性を言語化し、プロ農家ならではの立ち位置からしっかり発信していくべきではないかと考えています。

たくさんの視点、立場から発信された情報が増えていくことではじめて、日本の農業の現状とこれからに対する健全な議論ができますし、そうでなくてはいけないと考えているからです。

本物のプロ農家に比べれば僕たちなどはひよっこで、とるに足りない存在ではありますが、今後もしっかり声を上げていきたいと思っています。

僕たちが目指す大規模農業

さて、大規模だ、小規模だと書いていますが、僕の個人的な意見では、本当の意味での大規模農家は日本においてはまだ非常に少ないと思っています。

法律的な定義でいえば、資本金3億円以上、従業員数300人以上が大企業とされていますが(*3)、果たして日本にそれだけの規模の農家がどれだけいるでしょうか。

日本では、水稲を100ヘクタール栽培すると「大きい」と評されますが、それでも売上は1億円ほど。農業以外の産業でいえば中小企業、零細企業と言っても差し支えない売上規模です。

また従業者1人当たりの売上高をみると、製造業で約3000万円、卸売業で9000万円、小売企業で2000万円、飲食業で560万円となっています(*4)。農業界で「大きい」と評される組織の売上は、例えば卸売業で言えば1人が生み出す売上とほぼ等しいわけです。

農業のような肉体的に厳しい仕事が敬遠され、今後は若者がどんどん減り人手不足が加速していくなかで、いかに作業効率性や生産性を高めていくのか。

世の中にはIoTやRPAなどによる業務効率化が進んでいますが、事業規模が小さな農業では、そうした新しいテクノロジーを取り入れることが難しいのが現状です。

事業規模を拡大し、効率性や生産性を高めるためのテクノロジーを導入できる体力を身に付け、多様な価値観を持った人たちを雇用し、それぞれのワークライフバランスにあうようなカタチで仕事に取り組んでもらい、適切且つ十分な報酬や福利厚生を提供できる。高品質な生産物を日本国内はもとより、海外市場にもどんどん流通させる。会社も上場させ、より世界へと出ていく。

そんな大きな農業に挑戦したいと思う僕は、大馬鹿野郎でしょうか。

それではまた来週。

*1 農林水産省 「野菜をめぐる情勢 令和元年12月」(PDFファイル)25ページ参照
*2 現代ビジネス「地方への移住者が苦悶する「ゴミが出せない」という大問題
*3 農林水産省「農産物流通の現状と課題
*4 実際は、大企業の定義はない。中小企業基本法第2条によって中小企業の規模が定義されているので、その定義以上のものを大企業として扱っている。
*5 経済産業省 「従業者1人当たりの売上高


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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