アメリカ農業視察レポート
徳本です。
2月12日から2月16日までの5日間という短い期間ではありましたが、農業視察および農業エキスポ(World Agricultural Expo)参加のため、アメリカはカリフォルニア州に行ってきました。
本稿では、アメリカという世界一の農業大国で何を見て、何を感じたのか、帰国後のトゥリーアンドノーフのスタッフとの会話を再現するかたちで共有できればと思います。
視察スケジュールは本記事の最後に掲載しますので、参考にしてください。
社長、お帰りなさい。いやー、アメリカ旅行、うらやましい限りです。
ただいま。でも、単なる旅行ではないですよ。視察です、視察。
で、どうでしたか? やっぱり広くてデカいですか、アメリカは。
アメリカの農業、大きいです。凄まじいスケールなので、かなり圧倒されますよ。畑もめちゃくちゃ広いし、トラクターなんかもめちゃくちゃデカイです。
ジョン・ディアの巨大トラクター
RIO FARMの広大なセロリ畑。定植の様子
「経営」に対する意識の高さ
規模が大きいと、単純に、それだけでいろいろなマネジメントが大変になるよね。
そうですね。スケールが日本とは桁違いなのでそこに目がいきがちですが、繊細で緻密、合理的な意思決定に基づく経営にこそ、注目すべきだと感じました。それがなければ、あの規模の事業をきちんとハンドリングすることはできないと思います。
RIO FARMのマネジャー。どんな質問にも的確に、スピーディに答えてくれた
日本では、経営者の視点、意識で農業に取り組んでいる人は少数かも知れないね。
具体的には、どんなところでしょうか?
たとえば労務管理の点では、チーム制による成果報酬やストックオプションを与えたりなどかな。働くインセンティブを会社側がしっかり用意している印象だったね。
アメリカらしいね。
福利厚生としては、従業員専用の野球グランドまであるところもありましたよ!
アウトソース環境の充実
農業と経営という点にさらに付け加えると、農業という事業で結果を出すには、多岐にわたる専門分野の知識、知見が必要になります。
野菜の生産技術という領域だけで言えば、土壌、植物生理、物理化学、生物資源、機械工学なんかですね。
さらに農業は自然の中で行う事業なので、気候風土に強く影響を受けるよね。だから、日々の農作業やスケジュールも臨機応変に組み立て直せる力が必要になってくる。それに食べ物を扱う仕事だから、衛生管理や品質管理などの知識や技術も必要。
仮に一人で、それだけの数の分野の専門性を身につけたとすると、他業種だと年収数千万円の人材になれるね。
トゥリーアンドノーフのような小さな組織だと、専門家にはなれなくても、広く浅く、ある程度の知識を個々人が持つ必要がありますが、アメリカのように超大規模になると、やはりこれらを社内だけでまかなうのは無理がありますね。
アウトソース(外部委託)してるってこと?
そうなんです。アメリカの場合、まず規模が超大であること、気候風土が比較的均一でドライであること、そして農業経営者が非常に合理的な経営判断をすること。そういった背景から、専門領域のアウトソースがビジネスとして成立しているようです。
例えば、どんなサービスがあるんですか?
地域資源をリサイクルするコンポスト(堆肥)の製造販売、土壌分析から肥料散布の実施、高度な大型機械作業など、それぞれを専門とする会社があるよ。
日本だとあまり聞かないですね。草刈りを頼むくらい。
さらに、品質や衛生管理については、第三者による認証プログラムがある。なんと畑に入るのにメッシュの帽子と手袋の着用を義務付けている農業法人もいるくらいなんだ。
規模が大きくなると、そうしたプログラムや規則がないと、管理できないんでしょうね。
反面、アウトソース先の企業といったサードパーティのビジネスも発展しやすくなって、またそこに競争が生まれてそれぞれのサービスレベルが上がることで、農業という事業全体の底上げになってるんだろうね。
エコ(ロジー&ノミー)なオペレーション
しかし、それだけ規模が大きいと、たとえば地下水や肥料資源などの資源の乱用というか、消費も大きいでしょうから、そのあたりに問題は生じていないんですかね?
僕もそういうイメージだったよ。ところが実際には、ほとんどの農場は株元灌水(*)だし、窒素の投入量も通常の50%以下に抑え、その後の生育状況に応じて必要最小限の株元への液肥灌水(*)でコントロールしてるようだよ。
TANIMURA & ANTLEの畑の灌水設備。すべての畑の設備が整っている
サリナスバレーの広大なレタス畑
規模が大きいだけに、ちょっとした工程の違いがコストの大きな差になりますもんね。
そのとおり。当然のことながら、なんの根拠も必要性もない灌水や施肥(*)は行われていないので、姿勢としてはエコロジーだし、エコノミーでもあると感じたよ。
写真を見ると、ものすごく整った畑ですよね。
そう。畑ひとつの区画が10〜50ヘクタール(*)とかなり大きなものが多く、そうなると僕たちがやっているように、少し遠くにあるものを目印にしてまっすぐにトラクターを進めて……なんてことはできないので、GPSでの操舵が基本。だからまっすぐで、均等で、非常に美しい。であるからこそ、大型機械での作業もできるわけ。
やっぱり、事務所や作業場なんかも綺麗なんですか?
バックヤード含め、整理整頓は非常に徹底している印象だったよ。整理整頓は、生産性を上げるうえで重要な要素の一つだと思うね。
実際の野菜の味はどうだった?
畑で野菜を食べましたが、甘くて美味しく、予想以上でしたね。
当事者意識の強さ
RIO FARMの方が「能動的に動けない人間はダメだ。そこが決定的に重要だ」と話していたのが印象的でした。
能動的に動くには、自分自身でしっかり考える必要がありますね。
それには、何を成し遂げるのか、何が解決すべき問題なのか。短期的にも長期的にも捉え、ミクロとマクロ両方の視点が必要だったりすると思うけど、それを共有化できてるかというのも大きいね。
アメリカであった農業経営者は、ほぼ例外なく強い危機意識を持っていました。世界情勢やマーケット、労働環境の変化、資源枯渇のリスク、急速な人口増加など、近い将来、様々な問題が生じてくると思われるなかで、建設的かつ合理的に立ち向かっていくという強いを意思を持っていましたね。
日本だと近視眼的になりがちなうえに、やれ農協が、やれ行政が、などと現状の責任を他者におしつけようとする姿勢が強いですよね。
環境や制度、既存の仕組みを批判したり嘆いたり、他者の手法を批判するのではなく、それぞれが問題の当事者として、これから成長・存続していくために、どの様な意思決定・行動をすべきなのか、ということを常に考えている、そんな印象だったよ。さらに、農業経営者だけでなく、資材・機械メーカー、マーケット、大学などの研究機関、自治体、全てのステークホルダーが問題を認識し、理解し、当事者意識を持って解決に取り組んでたね。これが、アメリカの農業が世界トップクラスである所以だと確信したよ。
日本だと、基本、日本語の情報しか流通しないから、世界的に語られている問題意識なんかが、特に地方の農家なんかの目や耳に入ることは少ないだろうしね。そうなるとなかなかそれについて考えることもないだろうし。
日本だけで考えても、農家の減少、耕作放棄地の増加、食料自給率の問題など、たくさん問題はありますよ。
もっともっと危機的な状況にならなければ、日本の農業界は当事者意識を持つことができないと思うよ。
さっき、アメリカの当事者意識の話で、マーケットにもそれがあるという話だったでしょ。販売する側だけじゃなくて、消費者にもそれがあるとしたら大きいよね。スーパーなんかの売り場で手に取る野菜が、農家が畑でつくったものだという意識で手にする人が増えないと、農業に関する問題意識は多くの人にとって対岸の火事のままになるだろうね。
日本の農業は過渡期を迎えています。過保護とも評される農業政策は間もなく機能しなくなるはずです。一方で、正しい競争環境が生まれます。つまり、トゥリーアンドノーフのように、新しく農業を始めた事業体にはチャンスだと思います。
有機野菜のマーケットの規模や需要は、日本のそれを遥かにしのぐ規模
言語化して発信していくこと
最近、トゥリーアンドノーフもトラクターを新しく買ったわけだけど、これ一台でもかなりの大金を支払うわけでしょ。アメリカのような超大規模な農業となると、これとは桁違いのお金が必要になるよね。このあたりはどうしてるんだろう?
いや〜、実はそのあたりについて聞きそびれてしまったんですよね。
アメリカの補助金制度なんかの現状も聞いてみたいところですよね。
うん。中規模以上の農業法人のM&Aの現状、今後のファインナンス戦略なんかは本当は聞いてみたいところだったんだけどね。後悔と反省。。
海外だと、農業の新しい技術にIT企業が投資しているといったニュースが流れてたよね。
生産性と持続性の高い農業の技術開発は、人類共通の逼迫した課題にも関わらず、しかるべき投資がされているようには見えないんですよね。日本国内で、農業生産を主とする上場企業の評価も適切とは思えないですし。
いろいろと問題はあるけど、ICO(*)など新しい概念や技術を用いた資金調達の方法もあるし、今後は農業もそうした方法で資金を得ることも考えてみる必要があるかもね。
そうですね。いずれにせよ、もっともっとダイナミックに変革を起こしていくためには、ファイナンスの選択肢はより重要になってきます。そのために大切なことは、もっともっと外に向けて、言語化して発信していくことが必要だと強く感じました。
もっともっとアグレッシブに!
長くなったので、そろそろまとめようかね。
地方の片田舎で農業をしていると、視野が狭くなったままになりがちです。
どうしてもそうなっちゃいますよね。
今回アテンドしてくださった浅野秀二さんから聞いた、カルフォルニアでライス・キングと呼ばれた国府田敬三郎や、ポテトキングと呼ばれた牛島謹爾の不屈の開拓話、起業家精神に心が震えました。この広大な異国アメリカに日本から移り住み、ゼロから全米一の生産事業を作り上げたという生き様……移動するバスの中で、延々と続くカルフォルニアの広大な農地を見ながら思いを馳せ、何故か涙が止まらなくなりました。
ぐすっ
君、相変わらずよく泣くね(*)。
浅野さんがおっしゃっていました。「昔の日本人は命がけだった」。今回のアメリカ視察で、もっとアグレッシブに思いっきり生きなさい!と、背中をグッとと押してもらったように思います。
アグレッシブ! ぐすっ
次の世代の子どもたちに、持続的で安全な食糧生産の仕組みを伝えていく必要があります。農業者はその使命を背負っています。この根源的で、重要な仕事に関われることにあらためて心から感謝し、その実現のために、命がけで挑戦していく決意を新たにしました。
社長、がんばりましょう! ぐすっ
終わります。
*株元灌水:野菜の株元だけに灌水(=水をやる)こと
*液肥灌水:液状の肥料を与えること
*施肥:肥料を与えること
*ヘクタール:1ヘクタール=1万平方メートル
*ICO:Initial Coin Offeringの略。資金を募る企業体等がトークン(一般的には仮想通貨と交換できるデジタルの引換券のようなもの)を独自に発行し、資金を獲得する手法。ちなみに、未公開企業が証券取引所に株式を上場することをIPO(Initial Public Offering)という。
*君、相変わらずよく泣くね:「徳本が野菜をつくるまでの話(2)」を参照のこと
アメリカ視察旅行日程
- 2月12日
- New Seasons Market
- Tanimura & Antle
- Whole Foods Market
- 2月13日
- The Farm
- World Ag Expo
- 2月14日
- World Ag Expo
- 2月15日
- University of California Lindcove
- Research & Extension Center
- McKellar Farm
- 2月16日
- Rio Farm
- San Miquel Produce
- Super King Market
- 99 Ranch Market
とても分かりやすかったです!
アメリカ視察に行きたくなりました。
コメントありがとうございます!
毎年スタッフたちと、アメリカ、欧州など定期的に視察に行けるよう、しっかり儲かる農業実践ていきたいですものです。