過去の失敗 その1 – レストラン構想

徳本です。

この記事の最後に書いたとおり、自分たちが犯してきた過ちや失敗を整理し、シェアしていきたいと思います。

最初にシェアしたいのは、固定種や農業とは直接関係のある内容ではありませんが「レストラン構想」です。

レストラン構想とは

TREE&NORFの象徴となっている大タブの木の近く、畑のド真ん中で、自分たちが栽培した固定種の野菜をメインとした、本格的なイタリアンレストランを2014年秋に開業する。

これが、レストラン構想の概要です。

大タブの木

TREE&NORFのスタートは2012年の春なので、1年半後にはレストランを開業し、そこで供する野菜のほぼ全て、それも固定種を自前で栽培するという、とてつもない計画でした。

しかし、建築家にも相談し、予定地の地主と交渉したり、行政や農業委員会など関係各所と調整を進めたりと、実現に向けて動き出していました。

なぜ、この計画を考えたのか

野菜を最高のかたちで自分たちがお客に直接提供する、6次産業化など、いろいろな目的はありましたが、これはありがちなもの。僕たち固有なものとして以下の2点があります。

1. 固定種の弱点をカバーできる

固定種の特徴として、

  • 一般的に流通している野菜と比べて見た目が悪い(と評価される)
  • 大きさやカタチが不揃い
  • 生育速度が一定でないので、収穫や出荷が一度にできない

といったものがあります。

これらは野菜たちの個性ですが、流通を前提とした見方をすると「弱点」となります。

しかし、自分たちでレストランを運営すれば、こうした点は弱点ではなくなり、3点目などはむしろ長所となります。(あくまで理屈ですが)日々ズレて収穫期を迎える野菜たちを、調理するその日に収穫してやることで、鮮度抜群の野菜をお客に供することができるからです。

2. 鹿野町とのシナジー

TREE&NORFのほ場から車で10分ほど南に行くと、鹿野町という人口4000人ほどの小さな町があります。

今から10年前に鳥取市に編入されましたが、文化と伝統を町一帯となって守る姿勢が強い地域で、かつての城下町だった街並みを残す景観は風情があります。良質な温泉も湧き出ていて、宿泊できる施設もあります。

また、廃園となった鹿野幼稚園跡地では、「鳥の劇場」が活動しています。地域に根ざした劇団として、毎年国内外の劇団を招待しての大規模な演劇祭を開催したり、様々なアートイベントを実施しています。

こうした、「文化」「歴史」「伝統」「温泉」「宿泊施設」「アート」といった鹿野町が持つコンテンツに、僕たちが「食」というコンテンツを提供することで、良いシナジーを生むことができるのではないか、と勝手に考えたわけです。

この計画の何が間違っていたのか

思うに全てですが、その中でも3つの点にフォーカスしてみたいと思います。

1. 農業の難しさを理解していなかった

ふつうに野菜をつくることがまず難しいのに、僕たちが挑戦しようとした固定種の野菜を農薬・化学肥料を使わずに栽培することがさらに困難であることは、以前に書いたとおりです。

通年営業のイタリアンレストランに、基本的な野菜や季節のものを、必要な種類と量を安定的に供給する。畑の真ん中にあるレストランだから、もちろん野菜はとびきり美味しくなければならない。

長年取り組んできた実績のあるベテラン農家でさえ、単体でこれを簡単には実現できないことは、今なら分かります。

2. リーダーである僕が現場不在になった

当時のTREE&NORFは、僕と現場担当者2名の計3名でした。

TREE&NORFの代表者としての僕の仕事は、事業構想立案に加えて、野菜の営業、ほ場拡大のために地権者に会ったり、農業法人としての事務業務など、多岐にわたっていました。さらに当時は、わったい菜という鳥取の食品を販売する事業の責任者も兼任していたため、非常に多忙でした。

レストラン構想に関連する業務だけが理由ではありませんが、最も大切な、ものづくりの現場であるほ場に僕自身が立つ時間を十分に持てなかったことは、TREE&NORF立ち上げから2年間、野菜が満足に作れなかった大きな原因の一つだと考えています。

当然のことですが、野菜がつくれなければ、レストランをつくることはできても、お客に料理を供することはできません。

3. 事業が複雑になった

十分な時間をかけて単品目、あるいは数品目の野菜の栽培に取り組み、経験とノウハウという土台ができ、それゆえ高い品質の野菜を安定的に作ることができる。
 ↓
次の挑戦として、面積を拡大するのか、品種を増やすのか、などを検討する。将来、飲食業を展開することを視野に、どのような野菜が必要かを調べ、自前で栽培、供給できるかを検討し、いくつかの野菜から試験的な栽培に着手する。
 ↓
増やした品目の栽培も安定してきたので、かねてより立てていたほ場拡大計画を実行に移す。
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飲食店を出店するための準備を開始。土地や資金の準備、近隣住民との十分なコミュニケーション、調理やサービスなどスタッフの採用、マーケティングのプランニングを進める。
 ↓
季節によって増減するものの、自前の飲食店で提供する料理に使用する野菜を、年間を通じて七、八割は提供する体制が整う。
 ↓
十分な準備、シミュレーションと吟味を重ね、出店する。

農業、飲食店出店、いずれの経験もないスタッフだけで、以上の事柄を1年半でやろうとしていたのです。当然、個々のスタッフが受け持つタスクは多くなり、複雑になります。

時間をかければ良いというわけではありませんが、やるべきことに集中し、一つひとつをしっかり積み重ねていかなければ、プロジェクトは完成しないのです。

やることはシンプルに。一番大切なことに集中する

レストラン計画は、土地取得に関する問題などもありますが、それ以前にやるべきことをしっかりと進めていくために、現在は無期限の延期となっています。

僕たちが今やることは「美味しい野菜をつくること」。

やはり、これに尽きます。

なぜ失敗を共有するのか

「わざわざ失敗談をブログに書いて、マイナスイメージを与える必要はないのでは」という意見を持つスタッフもいます。

しかし、僕は失敗はマイナスではないと考えています。失敗は、きちんと反省してそこから学べば、成功への土台となります。

つまりプラスの要素なのです。

失敗をしない人はいません。もし失敗をしていないという人がいるなら、何か新しいものごとに取り組んだり、挑戦したことがまだないのかも知れません。

僕たちの失敗が、僕たちにとってだけでなく、農業や六時産業化に取り組む人、取り組もうと思っている人、その他新しい挑戦をする人たちにとっても、何かしら有益な情報となり、土台となればこんなに嬉しいことはないと考え、記事を書いています。


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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