2018年の目標

2017年の総括、「失敗編」と「成功編」に引き続き、今回は2018年の目標編をお送りします。

さて、昨年までの失敗と成功をこれからどのように生かしていくか。結局のところ、これが一番大事なわけだよね。まずは今年。

正に。

売り上げは2017年の3倍が目標

ではまず、「儲かる農業」を標榜するトゥリーアンドノーフの、2019年の売り上げ目標を聞かせてもらおうか。

具体的な数字は明かせませんが、大台を突破したいと思います。営業利益率(*)は15%以上ですね。

大台。昨年に比べてどれくらいのアップになるのかな?

およそ3倍です。今年は栽培面積を2倍(20ヘクタール)に広げます。くわえて昨年の失敗と成功の体験を踏まえて、より生産性の高い農業を実践します。

生産性の高い農業を実現するための要素を、一つずつ説明してくれる?

土づくりの機械の大型化

まず、昨年の失敗を通じてあらためて痛感したことは、もっとも大切なのは土作りだということです。

農業では土作りが大切というのは、よく聞く話ではあるけれども。

どんなに綿密な作付け計画を立てようが、細かく土壌分析して施肥設計しようが、ミネラルなどの高価な資材をどれだけ畑に投入しようが、土の状態、つまり畑の状態が悪ければ、これらの効果は限定的か、最悪の場合、意味がありません。

意味がない。

たとえば極端に水はけの悪い畑があったとします。土壌分析し、肥料を設計して土にすき込み、スケジュールどおりに種を播いても、雨が降って池のようになってしまうと、当然、野菜はできません。


まるで池のようになった水はけの悪い畑。長雨のあとや冬季は、このような状態になる畑がある

なるほど。

この「水はけ」を良くするアプローチは大きく2つあって、一つは土そのものの状態を良くする、専門的には「団粒構造」にする方法、もう一つは畑の中にいわば水路(*)のようなものをつくって排水を促す方法があります。今までは前者に注力していましたが、後者は機械化も必要だったりしてあまり力を入れることができてなかったんですね。

両方のアプローチが必要というわけだね。

そうですね。ただし、大切なポイントとは言っても、ここにのんびり時間をかけてやっていくわけにはいきません。さっきも話したとおり、今年は昨年の2倍の作付け面積に挑戦しますから、むしろ昨年よりも作業速度を上げる必要があります。

確かに。

そこで今年は大型の機械を導入し、土作りを大規模に、迅速に実行できる工程へと変えます。机上の計算では、管理可能な畑の面積は最大30ヘクタール、人件費換算でおよそ4000時間を節約することが可能になります。

小松菜を栽培するスケジュールの一番最初にある「土づくり」の部分に大型機械を入れることで、規模を拡大しつつ、スケジュールどおりに進められるようになるわけだね。


2月末に納車予定の「ニューホランド T4.105(105馬力)

秀品率を上げる

次のポイントとしては、秀品率を上げる、という点が大切だと考えています。

秀品率とは、計画していた収穫量に対して、実際に出荷できた割合のことだよね。ざっくりとした例えだけど、100kgの収穫を計画して種を播いて栽培し、虫食いや生育不良などで20kgが廃棄になり、実際の出荷が80kgだった場合は秀品率は80%、ということになる。

はい。季節ごとにバラツキがありますが、一年の平均値として60%で考えています。

売り上げ目標は秀品率60%で計算されているだろうから、つまりこの秀品率が上がれば売り上げも目標を上振れするかたちになるよね。

そうです。秀品率は売り上げに直結しますが、コスト面、つまり人件費にも大きな影響を与える部分なんです。

と言うと?

小松菜は播種から出荷までの工程で、一番コストがかかるのが、最終段階である収穫から出荷調整、人が畑に入って一株ずつ手で刈り取り、作業場に運搬して洗って重さを計り、袋詰めする、という工程です。

そうだね。

例えば、小松菜の生育が揃っていて、一株あたりの重さが均一で、傷みも虫食いもない場合は、さっと水洗いして重さを計れば、どんどん袋詰めすることができます。

あ、そうか。逆に……

はい、逆に株の大きさがバラバラ、虫食いがあったり葉の痛みが多い場合は、葉の状態を細かく観察して不要な葉を落としたり、虫が付いていないか確認する必要があります。一つの袋ができるまでにかかる時間が桁違いなんです。

「秀品」をしっかり定義して揃えるよう栽培することで、もっともコストがかかる出荷調整作業を効率化できるわけだね。


生育が揃った小松菜は、収穫しやすく、出荷調整作業も楽

品種を限定する

秀品率を上げるためのポイントとして、栽培する品種が定まったというのは大きいです。

昨年は14種類もの、様々な小松菜を栽培してテストしていたと言ってたよね。

はい、そのなかでも「いなむら」という品種は抜群のデキでした。今年はこれが主戦力になります。

どういう風にいいんだろう?

「いなむら」は極立性の小松菜です。極立というのは、字のごとく、極めて立ちが良いという意味で、小松菜がすっと立つように育つんです。

横に葉を広げるのではなく、葉が上に向いているということだね。

これで何が良いかと言うと、収穫時の作業効率に影響してくるんです。小松菜は人が鎌で一つひとつ手で刈り取るのですが、切り取る部分がハッキリ見えているほうが圧倒的に収穫しやすい。葉が横に広がっていると、それを押しのけて株のお尻部分を見つけてから切り出さないといけないからです。何百株、何千株と収穫するわけですから、ちょっとした負荷の違いに思えても、全体としてはかなり大きな差になります。

なるほど。収穫のしやすさね。

もちろん、栽培のしやすさ、生育がきちっと揃う、瑞々しくおいしい小松菜に育つなど、野菜としての基本的なポイントは十分押さえてあります。

「いなむら」1本で行くのかな?

「いなむら」は6月〜10月の、比較的温暖な季節の時の主力です。春先、晩秋などの肌寒い時期は「はまつづき」「奈々子」という品種を栽培する予定です。

これらも極立性なのかな?

そうです。それに加えて、小松菜がしなやかで強く、雪に埋もれても折れにくいという特徴があります。寒い時期は、予想していないタイミングで雪が降ったりすることもありますので。

肥料・資材を見直す

今年は肥料の見直しも進めます。なんのために肥料を使うのかを徹底して突き詰め、目的を達成できる肥料のうち、もっとも安く、もっとも近場で入手できるものを選定します。逆に言うと、今までなんとなく使っていた、効果が曖昧だったり、評価しづらい資材の使用は一切止めます。

目的がないと評価のしようがないからね。

散布する肥料を減らすということは、肥料をまく作業も減るということなんですよね。

確かに。

それに、これまでは畑全体に播いていた肥料も、今後は野菜が育つ部分、つまり畝の部分だけにピンポイントでまけば、使用量も減らすことができます。


トラクターの前に付いているのが、肥料をピンポイントで播く機械

コストもリソースも減らすことができるね。もちろんそれで効果が減ってしまうと問題があるけれど。

これまでの経験と計算上では、問題ないと考えています。もちろん育ってきた小松菜の様子を見ながら、必要があれば肥料は与えていきますが。

去年のように、窒素飢餓になって全滅、みたいななことにならないよう祈ってます。

人が育つ環境、働く環境や現場を整備する

今年は、いま話してきたようなこと、これまでの経験や技術、知識といった部分も含めて言語化して、会社のなかで適切に共有できるように進めていきたいですね。

個人の知識や技術の向上が、会社全体のそれに繋がるようになるのが理想だよね。

そうですね。それには評価の仕組みもきちんと整えて、個人から組織、組織から個人へと情報や恩恵が、相互に行き渡るような仕組みにしていく必要があります。

スタッフが自発的に、働きたい、自分の能力を高めたい、成果を出したいと思える仕組みは大切だよね。ストックオプションやRSU(*)のようなものは難しくても、仕組みとしてはいろいろ考えられるんじゃないかなぁ。

人が育つ環境の整備と同時に、昨年から本格的に取り組んでいる働く環境や現場の整備もより進めていきます。

機材や資材などの整理・整とん、掃除などだよね。

はい。他にも畑を使っていない時も綺麗にしたり、また、雑草がぼうぼうに伸びてから除草するのではなく、草が生えづらい状態に整えてやることで、基本的には常に草のない、綺麗な状態を維持する取り組みも進めていきます。冒頭で紹介した大型の農業機械の導入は、そのためのものでもありますし。

すぐに野菜の栽培に取りかかれるし、見た目も綺麗で言うことなしだね。

提携農場について

昨年からはじまった提携農場についてはどうかな?

今年はあまり積極的に広げることなく、現在一緒に取り組んでいる岡山県真庭市の仲間と、良い野菜を生産し、きちんと売ることにじっくりと取り組む予定です。

ちょっとした動きがあるって耳に挟んだけど。

まだ公にはできませんが、話し合いを進めている地域があります。ただ、これについてはまだ何も決まっていないのと、こちらが一方的に考えて決める類の話ではないので、現段階ではまだ話せることがないですね。

では、また決まったら教えてください。

ITと農業について

トゥリーアンドノーフは、IT企業を親会社に持つ農業法人だけど、「ITと農業」のようなテーマで考えていることはないのかな?

今年これやります!っていうのはないんですが、考えているテーマではありますね。いずれそういう時代になるとは思いますが、もっといろいろなものが可視化、自動化されるようになるといいなと。

例えば?

畑の状態が深層までデータ化されて、それに基づいてトラクターなどが最適なオペレーションを自動で行ったり、農作業に関わる費用や売り上げが、手計算や手入力などを介さずにリアルタイムに分かる、などですかね。

後者は別として、前者は少しトゥリーアンドノーフや親会社だけでは開発が難しそうな領域だね。

まあ、そうですね。

トゥリーアンドノーフとしても、日々農作業の記録を細かくとっていたり、土壌分析を丁寧に実施してデータを蓄積しているわけだよね。そうしたものが例えば何らかのツールを介して多拠点で入力・集積されれることで、何かの知見や提案が得られるサービスになったりすると、その便益だけでなく、記録やデータが一次的な目的で終わらずに様々な効果を生むことになるわけだから、作業記録や土壌分析の作業コストが相対的に下がることも期待できるよね。

いまやっている身近なところにも可能性があるので、そうした視点・意識で日々、模索するのは大切だと思います。

まとめ「しっかり稼ぎます!」

では、最後にまとめを。

2012年に初めてから紆余曲折あって、失敗も非常に多かったですが、去年一年、がむしゃらに農業に取り組んだことで、農業家としてやっていけるな、という手応え、自信のようなものを掴んだんですよね。

うん。

今まで大きなことばかり言って、それを実現することがなかなかできていませんでした。それで周囲にはかなり迷惑をかけてしまってました。

かなりね。

が、今年の目標に関しては、決して大きなことではないと思えるし、実現できるという裏付けもきちんとあります。

なるほど。

ですから今年は、目標を達成して、しっかりと稼げる体質になって、標榜する「儲かる農業」の歴史をいよいよ本格スタートさせたいと思います。

がんばりましょう!

おしまい。

営業利益 本業の儲けを表す数値。一般企業の純営業活動から生み出された利益のこと。損益計算書上において、売上高から、売上原価および販売費、一般管理費を差し引いて残った利益。
畑の中に水路 地表に見える水路を「明渠(めいきょ)」、パイプが通されたりトンネルのように穴が掘られるなどして地中に隠れるかたちで設けられた水路を「暗渠(あんきょ)」と言う。
RSU Restricted Stock Units(譲渡制限付株式)報酬として株を受け取るが、一度に全ての株式が授与されるのではなく、数年に渡って授与するのが一般的。例えば100株が与えられ(Grant)、3年に渡って授与(Vest)される場合、1年目/20株、2年目/30株、3年目/50株などのように、年数を経て、定められた割合の株が授与(Vest)される。受け取るスタッフの勤続を促すとともに、株式を保有することで会社の業績に意識的になり、個人のパフォーマンスと会社のそれを関連づけて考えるようになるなどの副次効果も期待できるとされる。


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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