2017年の総括(成功編)

2017年の総括、失敗編に続く本項は、関係者待望(笑)の「成功編」です。

去年の失敗の話も出尽くしたところで、明るい話題に移ろうか。

まず話したいのは、これは成功事例ということではなく、どちらかと言えば、スタート地点に立つために行ったこととも言えるものなんですが。

農業をやるうえで基礎的なこと、ということかな。

農業にも限定されない話です。何をしたかと言えば、まず「整理整頓」です。具体的には、機械や道具、肥料などの資材の置き場所を定めて、使ったあとはキレイに洗って指定の場所に保管する、ということですね。ごく当たり前のことなんですが、2016年以前は、これが徹底されていませんでした。

本当に、かなり基本的なことから見直したわけだ。

はい。それから機械や道具は農業をするうえで本当に大切なものですから、定期的にしっかりとメンテナンスするようにしました。管理機(*)なんかはオイル交換しようと思ったら、コールタールのような劣化した機械油が出てきました。もう壊れる寸前だったと思います。


メンテナンス後のトラクター

農機具はどうしても使うたびに土で汚れてしまうので、毎回洗うのは面倒だと掃除や手入れを怠ってしまいがちかも知れないね。

洗わなければ洗わないほど、どんどん汚れがこびり付いてしまって、本来ならさっと水で流せば落ちるような汚れも落ちなくなってしまう。どんどん手入れという行為から離れていってしまうんです。

農業は体力を使う仕事だし、1日の作業が終わるころには疲れてるわけで、業務に掃除や手入れをきちんと組み込んでおかないと、可能ならやる、程度の認識だと、当然やらなくなってしまうよね。

たとえば、収穫に使うコンテナなんかは、安いものだしぞんざいに扱ってしまいがちなんですけど、もちろんこれもキレイに洗います。

小松菜という野菜、食べるものを直接入れる容器なわけだしね。


コンテナを高圧洗浄機で洗う清水

「整理整頓」というのは、倉庫に収納する時だけでなく、たとえば収穫時に畑にコンテナを置くときなども、そのような意識を持ってかかります。またあとで話しますが、畑が美しく見えるというのは、自分たちのモチベーションにも大きく影響しますし、畑を貸してくださっている地主さんにとっても、やはり嬉しいことなんですよね。

それはそうだろうなぁ。


収穫の様子。コンテナを整然と並べる

整理整頓と同時に取り組んだのは、機械の取り扱い方の見直しとマニュアルの作成、それから作業全般の定義づけです。

具体的にはどういう内容かな?

例えば、立てという作業があります。畝は野菜を植える場所で畑の中でも少し高くなっている部分です。この畝立てのために使う機械があるんですが、これまでやっていた基本的な使い方、取り付け方、設定の仕方が間違っていたことが分かったんです。

でも、過去にも畝立てはしていたわけだよね?

「よくこれで畝が立っていたな」というのが正直なところです。つまり間違った取り付け方や設定でも、畝は立っていた。つまりカバーする知識や技術があったわけですが、それが属人化していて、共有されていなかったんです。だから当然、人によって差がありました。

作業を担当する人が違うと仕上がりに差が生じるというのは、あまり良くない状況だよね。

畝立てする畑が違えば、機械の設定も変わってくる。土の特性や状態が一つひとつ違うからです。それをこれまでは個々人の勘に頼って作業していた。これを直さないと、「彼は畝立てが上手だから彼に頼もう」みたいなことが生じて、スタッフの労力を分配・スケジュールする際に制限が生じます。もしその人が辞めてしまったら、「次、誰がやる?」なんてことになる。


農機具は使用中に負荷がかかり設定が狂いやすい。使う前は必ず設定を確認。写真は畝立て機

個人でなく、会社という組織で農業をやってる以上、情報や技術は共有されるようにしないとね。

そこで、機械や道具の使い方を徹底的に見直して、マニュアルを作成していったんです。それを見れば、誰でも作業でき、仕上がりも均一化されるわけです。

あらゆる機械、作業に対してそれをやるのはかなりの重労働だね。

さらに、言葉、成果物についても一つひとつ定義しました。さっき出た「畝」についても、「良い畝」とはどういう畝かを僕たちなりに決めました。これがないと目指す成果物が共有できないからです。良い畝がつくれるようになると、畑は美しくなります。


長くまっすぐ伸びた畝。畝の仕上がりは風の通りや日照など、生育にも大きく影響する

美しい畑というのは、単にそれをつくった農家に美的センスがあるとかそんな話ではなく、畝ひとつとってもつくりかた、幅や高さなど、すべてに意味があるということだね。

そのとおりですね。それには機械の取り扱いがものすごく重要になってくるんです。これがきちんとできるかできないかで、野菜の出来不出来が決まると言ってもいいです。そして機械を使って、どんなものをつくるかを明確に定義して、共有すること。これも実に重要です。

そんなに重要なことなのに、これまでそれがなかったのはなぜなの?

僕がその重要性に気づいていなかったんです。2016年以前は、基本的な現場の管理をスタッフにお願いしていて、そのスタッフの報告や結果だけを評価し、手法についてあまり深く確認していなかったんです。

機械の取り扱いや成果物の明確化か。これ、農業ではなく何かの工場に置き換えてみると、ごく当たり前のことだね。工員が統一されたマニュアルやルール、設計図もなく、それぞれが自分なりの使い方で、自分なりにイメージした成果物をつくってたら、明らかに異様だもんね。

それに加えて、栽培前の土づくりから収穫までの一連の作業が仕組み化されていなかったので、作業が全部分断されて、断片的になっていたんです。去年、自分が主体となって畑に入るようになって「これじゃあ野菜がつくれるはずがない」と愕然としました。

基本的なことだけど、仕組み化ってのはいざやろうと思っても、日々の仕事に追われてなかなか手が付けられないことなのかも知れないね。

農業は体を動かしてさえいればいい仕事のように思われがちですが、決してそうではありません。小松菜は播種から収穫までのサイクルが数週間から2か月ほどと比較的短いので、一年のうちに何度も栽培できます。つまり仮設・検証がしやすいわけです。このPDCAのサイクルをしっかり回すこと、農業もこれが大切で、去年はすべての作業に対して実施できました。

頭もしっかり使わないといけないわけだ。

すべての畑の土壌分析を行って施肥設計(*)をし、季節や天気予報などを踏まえて肥培計画(*)を立てるわけですが、当然、それは机上論であって、自然のなかでやっている農業はそのとおりにはいきません。

PDCAを回すことで、農作業の記録を残し、何がうまく行ったか、何がうまく行かなかったかを残せたのは大きいよね。

かなりの学びがありましたね。僕たちが管理している畑の数は50以上、すべて条件や土壌の状態は異なります。これに対してPDCAを回しながら作業をしたおかげで、この地域で農業をやっていくうえで大切なものがハッキリつかめたことも大きかったです。

大切なものと言うと?

先ほど話した仕組み化とも重なるんですが、耕うん、施肥、播種、灌水、除草、収穫、撤収など、小松菜の栽培に関する作業すべてを、この地域では、どのようなタイミングでどのように実施すれば上手くいくのか、ということですね。

例えば、11月の2週目に収穫するには、何月に耕うんして、その後いつ播種してといったスケジュールや、その時に起こりうるリスクなどが掴めた、ということだね。

そうですね。

それは確かに大きいね。

さらに大きいのは、この地域で栽培するのにもっとも適した小松菜の品種も特定できたことですかね。

春ならコレ、秋ならコレ、冬ならコレ、みたいなことかな? 降雪で軸が折れてしまった小松菜と折れなかったものがあったという話があったけど。

そうですね。去年1年を通じて、今年栽培する品種を3つに絞り込むことができました。

ほう。なんて品種かな?

詳しくは目標編で詳しく話しますが、去年は合計14種の小松菜を栽培してみたんですね。鳥取で一般的に広く栽培されている品種、日本でトップレベルの農家からオススメしてもらった品種などです。

14種とはまた多いね。

これらを、一株あたりの重さ、収穫のしやすさ、出荷調整作業の効率性などの観点から評価したんです。

一株あたりの重さはなんとなく分かるけど、それ以外の点について説明してくれる?

品種によって、株のお尻、つまり収穫時に鎌を入れる部分の形状や葉の立ち方で、切りやすさが全然違うことが分かったんです。また、出荷調整作業は、小松菜を栽培するうえでもっとも人手が必要な部分です。要するに人件費がかかるので、ここの効率性が変わってくると利益が全然変わってくるんですね。

なるほど。

14種のうち、一番よい品種とそうでない品種で言えば、効率性に2倍近い差が出ました。これは経営的な観点からも大きいですが、やはり作業しているスタッフの気持ちなんかにも大きく影響するんですよね。

傷んでたり虫食いの多い葉っぱを落としてばかりだと、作業してて辛いよね。

そうですね。逆にどんどん作業が進むと、本当に楽しいですからね。

トゥリーアンドノーフの作業場は、いつもたくさんのスタッフが楽しそうに働いてるよね。

うちは本当に人に恵まれていると思いますね。小松菜は収穫と出荷調整(*)作業にどうしても人出が必要なので、もし人が集まってくれていなかったら、これだけの大量出荷はできていませんね。

どのようにして集めたの?

作業場の近所によくランチに行く喫茶店があるんですが、そこのママに「いやー、人が足りなくて」と相談したところ、知り合いに声をかけてくれて、一気に集まったんですよね。

すごい。

それから年末の繁忙期でさらに人手が必要になった時に、むかしうちでボランティアで作業体験に来てくれたことのある若者がいて、SNSに広いネットワークを持っていたんで、頼んでみたんですよ。そしたら、こんなツイートをしてくれて。

へー、ツイッターでのつぶやきで人が本当に集まってくるんだね(笑)。

これでかなり確保できたんですよ。本当にどこでどう人が繋がっていくか、分からないものです。とにかく、素晴らしいスタッフが集まってくれた、これは去年、成功したことというか、ありがたかったことですね。

他県の農場と提携しての活動も本格的に始まったよね。

はい。志があり、技術もある仲間と一緒に農業できるのは、刺激にもなるし、やはり楽しいですね。

さて、ではそろそろ、具体的な成果を聞こうか。

2017年の売上、ですよね?

本当に儲かる農業」を目指しているトゥリーアンドノーフとしては、やはりここは欠かせないでしょう。

具体的な数字は言えませんが、2016年に比べて、売り上げが3倍、収穫量は面積あたりで2.5倍でした。

ちょっと歯にものが挟まった感はあるけど(笑)。

すみません(笑)。ただ、2016年は去年以上に売り上げが厳しかったので、3倍と言っても実は目標には到達できませんでした。ただ、2016年にかかった人件費や資材のコストはほぼ横ばいのままだったんです。これは最初に話した、基本的な部分の見直しによる生産性の向上が大きかったと思っています。

売り上げ目標達成は、今年に持ち越しだね。

数字を達成していないのにこんなことを言うのはどうかと思いますが、とても健康的に、美しく立派に育った小松菜たちを収穫するのは本当に楽しいし、これを大好きな仲間たちと共有できる幸せ、これは僕にとって本当に大きいですね。


見事に育った小松菜と徳本


ミネラルたっぷり、ずっしりと重い小松菜

今年はその喜びに、「本当に儲かる農業」を実現する喜びも加えたいね。では、最終回の「2018年の目標編」に続きます。

管理機 畑に畝を立てたり、溝を掘ったりする作業に使う比較的小型の農業機械。
施肥設計 畑に投入する肥料の設計
肥培計画 栽培作物の目標とする生産量、品質を達成するための土壌管理や肥料による管理技術
出荷調整 畑から収穫した野菜を出荷するまでに必要な作業(野菜に付着した土や汚れを落としたり、傷んだ葉を外したりし、重さを計って袋詰めするなど)


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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