大規模農業と小規模農業はどちらが優れているのか?
皆さん、こんにちは。トゥリーアンドノーフ徳本です。
僕が長年胸に秘めてきた想い、大規模農家と小規模農家のどちらが優れているのか?について話したいと思います。
本動画は、先日公開したYouTube動画の内容と同じですが、動画では時間の関係で僕が語り尽くせなかった部分も多くありました。この記事では、そのあたりについても漏れなく語り尽くしておりますので、動画をご覧くださった方も是非お読みいただければと思います。
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日本に大規模農家は存在しない?
メディアやSNSなどで、「大規模農業vs小規模農業」といった話題を時々、見かけます。
僕たちのブログやYouTubeチャンネルでも、「あなたの意見は大規模農業目線の考え方ですよね」といったコメントをいただくことがあります。
しかし僕は、現在の日本に大規模農家はほぼ存在しないと考えています。僕に言わせれば、いま交わされている大規模・小規模の議論はほとんど全て、小規模農家のスタンスでのものです。
僕たち水稲農家は、100町歩(ヘクタール)を超えてくると「豪農」、「大規模農家」などと言われはじめますが、売上は1億円程度。他産業から見れば大規模でもなんでもなく、零細企業です。
日本農業のトップを他産業のトップと比較すると
みなさんは、日本トップクラスの農業法人、もしくは農事組合の売上がいくらか、ご存知でしょうか。
およそ50億円前後です。
売上規模は、世の中のニーズの大きさであったり、社会的な影響力を計ることができる要素の一つだと考えています。
僕は約10年前に異業種から農業の世界に飛び込んだんですが、日本トップの農業事業体の売上が100億円を超えていないということに非常に驚きました。
その時に抱いた率直な感想は、「農業には夢がないな」というものでした。
別の産業、たとえば、飲食業について見てみます。
都市部・地方問わず、国内外から多くの人を引き寄せる、小さくとも個性的で魅力のあるお店はたくさんあります。一方で、全国に多くの店舗網を持ち、何千億という年商を上げている大企業、グローバルカンパニーもあります。もちろん、その中間に位置する規模の事業体もあるでしょう。
農業界に目を転じてみると、農家という身近な存在はあれどそのほとんどが小規模で、多くの日本人が知っているような知名度を持つ農家、突き抜けた売り上げを誇る農業法人、大きな社会的影響力・発言力を持つ農業事業体はありません。
例えば、東証一部に上場している農家、日本だけでなく世界に名を轟かす農業法人なんて想像できますか?
僕はいつも想像してます。
売上規模による産業ピラミッドを描いた時、飲食業界のように、トップが突き抜ければ突き抜けるほど、ボトムにいる小規模なお店の個性も際立ち、産業全体として豊かな生態系が生まれます。
一方、農業のそれは、底辺だけがやたらと横に長く、高さのない状態です。発展しづらい、ある意味で多様性のない状態を示しているように感じるのは、僕だけでしょうか。
農家はみんな経営者
農業を営む人は、一般的に「農家」と言われますが、別の言い方をすれば「農業経営者(あるいは単に「経営者」)」です。
農作業だけでなく、事業経営する必要があるからです。
一般的に、売上規模が小さくなればなるほど、農業経営者は経営者としてよりも、いち作業者、プレイヤーとして現場に立つ時間が多くなります。
10年、20年先を想像してみましょう。僕たちは今のやり方で農業をずっと続けていけるでしょうか?
同じ作業量、作業の品質を保ちながら、環境の変化に柔軟に対応し、怪我や病気をすることなく健康と体力を維持し、自分や家族を満足させ幸せにするだけの十分な収益を上げ続けていけるでしょうか?
農作業の大変さは僕自身、骨身にしみています。
僕はいま44才ですが、10年後も同じことをしていることを想像すると、正直、恐怖しかありません。
今、農業界では事業継承の問題が方々で聞かれますが、経営の重要な骨子のひとつは「人を育てる」ということです。
次世代における農業界の担い手、ではなく、自身の農業事業のパートナー、スタッフとしての人材育成に、どれだけの農業経営者が取り組めているでしょうか。
プレイヤーとして日々現場に立ち、生産活動に従事すると、観察眼や栽培技術は鍛えらえますし、農産物のクオリティも上がり、プレイヤーとしてのスキルは確実にあがると思います。
しかし、それは非常に属人的なものです。
つまり、中心的プレイヤーであり経営者でもあるあなたが(そして僕が)、何らかの理由で農作業できなくなれば、あなたの(そして僕の)事業体は明日にも立ち行かなくなる可能性がある、ということです。
農家の「キャリアパス」
雇用した人材にキャリアパスを示し、能力に見合った給与と適正な労働環境や福利厚生を用意し、最高のパフォーマンスを発揮してもらう。それによってさらに事業を成長させていく。
一般的な事業体であれば当然、取り組むべき事柄ですし、実際に多くの企業がそうしているでしょう。
農業はどうでしょうか。
親元就農でない場合、農家や農業法人で研修を受けたり、数年勤めて技術を修得後、新規独立就農というキャリアパスがごく一般的でしょう。むしろ、ほとんどそれしかとるべき道がないと、みなさん考えておられるのではないでしょうか。
しかし、それでは小規模農家しか増えていきません。
短期間で独立していくことが前提ではなく、長期雇用、従業員のスキルアップ、専門性、プロモーション(昇進)、報酬、福利厚生などを含む人事体制、キャリアパスについて体系的に構築している農業法人が、この日本にどれだけあるでしょうか。
こうした体制を整え(もちろん常にアップデートが必要です)、事業規模を拡大することで、多様な人材が獲得しやすくなります。オペレーションのスペシャリスト、農薬・肥培管理のスペシャリスト、会計のスペシャリスト、マーケティングのスペシャリストなど専門分野の人材に育成、または雇用することで、より高度な農業事業体へと成長できるわけです。
さまざまな意味で人材の多様性が生まれ、事業体内部でのイノベーションも起こりやすくなります。
事業を拡大しビジネスが大きくなれば、投資を受けやすくなります。そうなると新しい農業に挑戦もできる。
生産性を高めるための大型機械、近年よく耳にするドローンやロボティクス、ICT・スマート農業。これを、たとえば売上1億円で実現できますか?
単にドローン1台導入する、GPS付トラクターを購入するといった部分的なものならできるかも知れませんが、これら最新のテクノロジーを導入することで、全く新しい農業にアップデートし、飛躍的に生産性を向上させるのは、おそらく無理でしょう。
なぜなら、これは全く新しい農業への挑戦にほかならないからです。
大規模ほど「繊細」、小規模ほど「思い」
農業事業を継続させ発展させていくためには、人材育成以外にもさまざまな要素が必要です。
大規模農業では、一つの小さな間違いが与える影響が大きく、雑な管理をしてしまうとそれが大赤字を生む要因になりえます。ゆえに、経営面積が大きくなればなるほど、現場をハンドリングするために緻密で合理的な管理が必要です。
僕が2018年に視察した、アメリカ最大の農業法人「タニムラ&アントル」。彼らは露地野菜1万5000ヘクタール、売上はおそらく500億円くらいだと思いますが、非常に繊細で、合理的な現場管理をしていました。
また、(おそらく)多くの方が持つイメージとは反対に、大規模農業が行う現場管理は、繊細で合理的ゆえに環境に与える負荷も最小限となります。
一方、小規模になればなるほど、合理性や収益性よりも、農法や生産物に対する思いとこだわりが強くなる傾向があると個人的には感じています。
思いやこだわりは大切なものですし、理念として掲げておくべきでものではありますが、マネジメントの観点から言えば、生産現場では一番遠くに離しておきたいものだと僕は考えています。
なぜなら、思いやこだわりは人の主観、定性的であり、それを評価軸にしてしまうと客観的なPDCAが回せなくなってしまうからです。
農家ベンチャーは存在するか
さて、サラリーマン志向が強いと言われる日本においても、近年は起業する人も増え、スタートアップの資金調達額も年々増加傾向にあります(*1)。
先に見たように、日本での農業の一般的なキャリアパスは独立就農ですから、農業を志す人は独立志向が強いと言えます。
ここに野心溢れる人がいて、誰も見たことも聞いたこともない新しい農業に挑戦したいと考えたとします。
しかし、現在の農業において、スタートアップ時の資金調達の選択肢はかなり限定的です。
農業をはじめようとする時、一般的には地域行政が窓口の一つとなります。
農地の照会、生産計画の立案から認定農業者となるための計画申請、各種補助金申請……。そのために農業をやったこともない、リスクを嫌う人たちから事業計画の審査を受けなければいけません。
彼らに挑戦的な農業の事業計画を提案して、それが農業界に与える影響の大きさを理解し応援してくれる可能性が、果たしてどれだけあるでしょうか。
(では、ベンチャーキャピタルなどスタートアップに資金を提供する組織にプレゼンテーションしてみてはどうか。起業する人、起業プランによるので、こればかりはやってみないと分かりません*2)
いずれにしても、現時点では、保守的で小規模な農家しか生み出さない仕組みが主流であることは間違いありません。
農家は社会的弱者なのか
僕の考えでは、売上10億円未満は小規模農業です。
全国に130万前後の農業経営体がありますが、10億円以上の売上を持つ農家は100軒に満たないはずです。
仮に100軒としても、割合としては0.00008%。残りの99.99992%は小規模農業。売上が数億円以上の農家は、圧倒的に畜産・酪農が多いので、米・野菜でとなるとさらに少なくなります。
日本の米や野菜は小規模農家ばかりの超レッドオーシャンで、同じような手法で闘いあっている。もちろん僕も今は、その中であっぷあっぷしている状態です。
必要なのは、視点を変えること、上げること。
農業という分野の中だけで農業を見る、評価するのではなく、違う分野の立ち位置から見てみる、俯瞰してみることが大切です。
それには、農家は本当の意味で農業経営者にならなければいけないし、プレイヤーとしてだけではなく、人を育成し、事業を成長させ、社会に発信し、農業界の影響力を作っていかなければなりません。
この春に話題になった種苗法改正に関してですが、SNSなどで見られた意見のほとんどが、当事者でない人たちの発信。農家たちの声は、そこにはほとんどありませんでした。
そして、そこで多く見られたのは「農家は大変」「守らなければいけない」「農家の権利を奪うなんてとんでもない」といった意見。
要するに、僕たち農家は社会的弱者として見られているんです。
いまある農業系ITプラットフォーム、産直ECなんかも、実は、すべてこの思想が通底しています。
要は、舐められているんですよね、僕ら農家は。
未曾有の時代を生き残る農家とは
日本の農家の大半を小規模農家が占めるのは、戦前戦後の農地解放が大きな理由の一つとして上げられます。
半世紀以上も保ってきたかたちだからこれからもきっと大丈夫という意見もありますが、僕は違う意見です。
これまで日本は人口も増え、経済も成長してきました。
しかしこれからは全く違う世界がやってきます。人口が激減する。減るだけじゃなくて、大半が高齢者になります。市場もとても小さくなる。未曾有の時代。
繊細且つ合理的で、効率性と創造性の高い農業を実践し、事業体として高い生産性(利益)を上げていけなければ、生き残るのが難しい時代がやってくるわけです。
僕たちが営農する地方の中山間地の農業の多くは、現状維持や延命に重きを置いています。成長や発展、挑戦がない、そのうえ安定もない場所に若い人が魅力を感じるはずがない。だから後継者なんてほとんどいません。
そうした場所の組合や組織はたいてい理事が多過ぎるし、昔のやり方を踏襲するだけ。もはや、自力では生き残れません。シュリンクする日本社会も早晩、そうした農業を支える力を失うと思います。
大規模化の機会
一方で、チャンスもあります。
僕たちのような新しく参入してくる人にとっては、むしろチャンスしかないと言ってもいいかも知れません。
ご存知のように、高齢化した農家がどんどん離農する時代がやってきます。奪い合いでなかなか新しい農地を獲得できない地域も多いですが、鳥取のような地方都市なら、田んぼや水路といった良質な資産をどんどん集積できる余地がまだまだ残っています。
これからは1000ヘクタール、1万ヘクタールといった規模で事業ビジョンを描けるようになってくるわけです。
農地が集積できない場合でも、農家同士でM&Aして、事業規模を拡大することもできます。
面積も売上も大規模に向かうことで、農業経営者はトラクターから降り、畑から出て、広い世界に飛び出せるわけです。
もちろん、農業のビジネスをもっともっと大きくし、もっともっと美味い農産物をつくって、たくさんの人に喜んでもらうためにです。
僕は大きくなりたい
今回、煽るようなタイトルでしたが、僕は規模の大小問わず、すべての農業者をリスペクトしています。どちらが優れている、ということはない。農業界にはどちらの存在も大切です。
でも、今は、大規模農家があまりにも少ないですよね。少な過ぎる。
僕も、まだ40年そこそこの人生ながらいろいろ経験してきてますが、やっぱり農業いいなぁ、好きだなぁって心の底から思います。
でも産業としての魅力はまだまだ、そのポテンシャルを発揮しきれていません。
もっと農業が魅力的な産業になっていくためには、圧倒的な規模を持った農業経営体がどんどん出てくる必要があると思っています。
僕はその一つになりたい、本当の大規模農業の経営者になりたいと思っています。まだだれも想像したことのないくらいの規模とスケールで成長させていきます。
みなさん、見ていてください!
それではまた来週。
* 国内スタートアップ 信金調達動向2018 / UZABASE 「【速報】2019年はSaaSの年。国内スタートアップ資金調達額は4350億円」
*2 スタートアップに対する資金調達は、農業関係で言えばほぼ「アグリテック」と呼ばれるIT系や、自動収穫機などのロボティクス、センシング技術を活かした現場管理システムなどに流れていますが、それらの中心地にいる「農家」そのものには一切、資金が流れていません。年商1億円程度の事業に投資をしても、ROI(投下資本利益率)が低すぎて、誰も投資したいと思わないのです。
いつも拝見させて頂いています。
いくつか質問がありコメントさせて頂きました。
島根県出雲市で就農3年目の現在4haの水稲中心の農家です。
後継者不足でチャンスがあると思い新規参入しました。
農業公社経由で圃場を賃貸借しています。
ただ回ってくるのは10a未満の田んぼ、超湿田、猪が出るような圃場です。大型農家さんが拒否した圃場や条件が悪く返却した圃場などが回ってきます。ですので実質2.5haしか耕作してません。
規模拡大していきたいと思っています
トラクター(mz65.nt43.ct340.gs200)田植機(zp67.np70)コンバイン(hf433×2)穀物乾燥機10台、畦塗り機2台、ハロー2台、草刈関係全て揃っています。。従業員も2名雇用しており機械設備、人で50haは対応出来る状態です。
2年やって気付いたのですがやはり利権や昔からやってる大型農家さん、営農組合に良い圃場や補助金が回っている状況です。
YouTubeを拝見すると2年目で32ha管理されて驚きました。
そこで質問なんですがどのように圃場を確保されてますか?ホームページにて田んぼを募集していますが公社を通すことなく直接お借りしてるのでしょうか?
お忙しいところお手数ですがご連絡頂ければ幸いです。
初めまして。徳本です。
好条件の良い圃場をいかに集積出来るか、これが土地利用型農業のもっとも重要な要素ですよね。ご経験されているように農業公社経由での農地案件は、誰も手をつけたがらない悪条件の圃場がほとんどです。ですので、地主の動向や、利用権が切れそうな圃場があるかどうかなど含め、常にその地域でアンテナを張っておく必要があります。稲刈り後10月頃から年明けにかけて、圃場の貸し借りの話が動く時期なので、そのころに、田んぼ借りたい旨の折り込みチラシ(該当地域にポスティング)をまいてみるのも一つの方法です。
ウチは、条件などのやり取りは直接地主と行い、契約書面上は農業公社を通すという流れでやっています。
地域によっては、大型農家が拮抗していてほとんど条件の良い圃場が流動しないケースも多く、むしろ平野部ではそのようなエリアの方が多いように思います。一方で、関東のとある若い農家さんは、事前に各地域をリサーチし、田んぼが大量に出てきそうなエリアにあえて就農し、5年で100ha近く集積した事例もあります。
それだけの機械設備を保有されていて、農地集積が厳しい状況にあると、死活問題ですよね。僕に出来る範囲であれば、相談にも乗れますので、必要であればご連絡ください。
徳本様
ブログの拝見いたしました、学びの多い内容大変参考にさせていただいております。
鳥取県出身で現在は東京で会社員をしているものです。
さてブログの更新日から時間が立っており恐縮なのですが、先日農林水産省から転作支援策の実施方針があげられたかと思います。鳥取でも飼料用米への転作に対して支援されることと記載がありましたが、徳本様からみてこの飼料用米について、所感などがあればお聞きしたく存じます。
※調べてみるとサイトによっては日本の食料自給率の増加に対する対策という面についても指摘されており、徳本様が過去ブログで記載で、「産直EC、国や行政の課題設定は、全てとは言いませんが、あまりに本流から逸れたものに見える」とありましたが、今回の施策については農業について無知のいち消費者ではありますが課題設定が本流と外れている気がしたと感じたので質問させていただきました。
ご回答いただけますと幸いです。これからも応援しております。
農地改革と農地法により、日本の農業インフラは徹底的に細分化され、破壊されました。
生産が農地に依存する限り、農地をいかに再集約し、土地の利用効率を高めるか、そのために悪法と土地神話幻想をいかに打破するか、国と戦う必要がまだまだあります。