僕たちのTPPに対する考え
徳本です。
去る10月5日、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の参加12か国が開いた共同記者会見で交渉が大筋で合意に達したこと、その2週間後の20日に日本政府から合意の詳細が発表されました。
新聞やテレビなど、日本の主要なメディアでTPPが語られるとき、必ずと言っていいほど「食と農」が取り上げられます。「日本の食の安全が脅かされる」「日本の食料自給率が低下する」といった懸念や、「日本の農業が壊滅する」など過激な発言が飛び出すことも珍しくありません。
トゥリーアンドノーフの事業に対する影響
僕たちトゥリーアンドノーフの事業に対して、TPPがどのような影響を及ぼすのでしょうか? 日本の食や農といった大局的な視点は専門家に任せ、ここでは僕たち自身のことを考えてみたいと思います。
TPPで問題とされている一つは「関税の撤廃」です。
現在、国内産の農産物を保護する目的で、こんにゃくの1708%やコメの778%など、一部の農産物に高い関税率をかけて輸入を制限しています。例えばコメの778%という関税率は、10kg 1300円という安価で輸出されたコメが、およそ1万円で輸入されることになる、非常に高い税率です。海外の農家は、日本のマーケットでの競争力を持つことができません。
これが撤廃されれば、状況が大きく変わるのは当然のことです。
では、僕たちがつくっている農産物はどうでしょうか? 以下は、僕たちがつくっている主な野菜と、その基本的な関税率です。
- じゃがいも:5%
- だいこん:無税
- にんじん:5%
- 白菜:無税
以上、すべて基本関税率(引用:財務省)
このように、現時点で既に、国内の消費税にも満たないわずかな関税率となっていて、5%の野菜でも条件や国によっては無税になります。
また、これらの野菜は、鮮度と検疫などの問題でそれほど輸入量が多くなく、輸入しているとしても、主な輸入先がTPPに加盟していない中国であることが多いため、影響はかなり限定的だと考えています。
それ以前に、僕たちのつくる野菜は、気高町という豊潤な農地で、マーケットのニーズや食味などを吟味して厳選した品種を、農薬や化学肥料を一切使用せずに丁寧に栽培したものであり、また、栽培過程はもちろん、僕たちの考えや思いをしっかりと知っていただくための情報を発信していることなど、国産という枠を超えた価値を持つものだと自負しています。
つまり、マーケットが違うわけです。
関税によって生じている国内消費者のアンフェアな状態
とにかく安いものが助かる、と考える消費者もいれば、多少高くても安心して食せるものを選びたい、という消費者もいます。時と場合によっては、この消費者が入れ替わったりもします。
当たり前のことですが、マーケットは画一的ではありません。
しかし、現在の、高い関税率によって安い外国産の食材の輸入が厳しく制限されている状況は、マーケットを画一化させ、ある意味でアンフェアな状態を生んでいると言えます。
高率な関税によって得られた税収は、補助金などのかたちで当該産業の農家や法人へと分配されます。これ自体に問題はありませんが、本来なら安い輸入食材を求める消費者も、関税によって高くなった輸入食材を買うことになり、それによって得られた関税は、その消費者が買い求めた商品とは関係のない生産者に分配されているのです。「日本人なら、日本の産業保護に協力するのは当然のことだろう」という意見ももっともですが、本来なら、国産の商品価格を補助金分高め、その値上がり分を国産食品の消費者に負担してもらうのがフェアでしょう。
いわゆる受益者負担という考え方です。
日本の農業家は何をすべきか
価格が上がれば、商品に対する消費者の考え方も当然変わってくるでしょう。国産というだけでは、消費者との関係を維持することが難しくなるかも知れません。
しかし、それはいつの時代も、どの産業でも当たり前のことで、常に努力し、商品や経営などを改善していく必要があります。農業だけがこれまでと同じで良い、というわけにはいかない時代が到来しようとしています。
TPP以外にも、WTO(World Trade Organization / 世界貿易機関)での流れは、極端に高い関税率は下げるか、撤廃されなければならない、という方向へと進んでいます。
今、でなくても、いつか、そうなるでしょう。
もし、今、政治などに働きかけてこの流れを止めることができたとしても、それは一時的なものです。将来、流れを止められなくなった時の対応、僕たちの世代が今やっておくべきだったかも知れない仕事を、子どもたちや孫など次の世代に丸投げしてしまうことになります。
今、日本の農業家がやるべきことは、勇気を持って自ら変化していくことだと考えます。
この世界では、生命の「種(しゅ)」と同じように、強いものが生き残るのではなく、適応し変化できるものだけが生き残ることができるからです。