有機農業を科学で捉える ~絶望の淵から這いあがるために~
徳本です。
トゥリーアンドノーフは4年目の農業法人ですが、作物が草に負けたり、病気や害虫の影響で生産量が激減したりと、まだまだ現場では問題が生じています。
この写真をご覧ください。
今年の秋から生産を開始しただいこんです。生育初期にダイコンサルハムシ被害にあい、ほぼ全滅しただいこんの様子。葉をほとんど食べられたので光合成出来ず、生育が完全に止まります。
夢物語?
「有機栽培で大規模に安定的に、健康で美味しい野菜を生産し、より多くのお母さんや子どもたちに届けて行きたい」
この思いを原点に、これまでも様々な関係者から助言をいただいたり、書物を読み漁ったりして現場で試行錯誤を繰り返してきましたが、なかなか結果としてカタチにならないことが続いていました。
生産の失敗は、僕はもちろん、手塩に掛けて生育に関わってきた生産スタッフにとっても強いストレスとなって襲い掛かります。それだけではなく、注文を頂いているお客さんにも多大な迷惑を掛け、信頼を失う大きな要因となります。
そして一番怖いのは「何でそうなったのか?」という明確な根拠、原因が分からない時です。失敗が次の成功へとつながる経験値としてではなく、単なる失敗として終わってしまうからです。原因がわからなければ、次も同じ失敗を繰り返していく可能性が高まります。
そんな時、僕は絶望に近い感情を覚えます。所詮、大規模有機農業は夢物語なのだろうか? と。
視察と研修の日々
少しずつ状況は改善してきているものの、根本的な技術の捉え方が何か間違っているのではないかと、今年の夏ごろからより強く思いはじめました。
そこで、全国の産地で有力な農業法人の視察や著名な栽培コンサルタントの研修会などに、時間を見つけては積極的に参加するようになりました。
毎年、大雨が続いたり、日照りが続いたり、病害虫が大量発生したり、何かしらの外的要因で生産量が激減し、野菜が高騰することがあります。
しかし、全ての農家が同じように打撃を受けているかと言えばそうではなく、大きな被害のあった産地の中でも必ず安定的に収穫、出荷している生産者・法人があります。どんなロケーション、コンディションでも質の良い野菜を安定生産し、営業をしなくとも、着実に生産量(売上)を上げている生産者・法人が確かにいるのです。
農業を科学で捉える
彼らに共通して言えるのは、驚くほど収穫量が多い。野菜が健康で美味しい。しっかりと利益を出している。そして、農業を科学で捉えている。という事です。
つまり、土壌学、植物生理学、物理化学、微生物学、気候地理学、品種特性、IT、様々な分野の知識を理論的に活用し、準備を行い、そして日々変化する生育状況に臨機応変に対応する。そして問題が起きた時、理論的に原因を究明し対処を行う。次の作付にその経験を確実に活かす、ということ。
今、僕は明確に断言出来ます。「有機農業は科学」だと。
これらを実証することも踏まえ、TREE&NORFの技術指針や使用資材を全て見直しながら、来年以降の計画を着々と進めています。特に来年後半からの出荷品目は、より質の高い健康で美味しい野菜が安定的に作れる土台ができ上がってくると考えています。
ジャパンバイオファーム元木氏
農業を科学的に捉える技術をより高めるために、先日、現在TREE&NORFが技術的指標としてお世話になっている、ジャパンバイオファーム元木さんにお願いしてTREE&NORFに来ていただきました。
ジャパンバイオファームは、日本で最も科学的に有機農業を解析・理論立てし生産技術の向上に寄与されている方のひとり、小祝政明さんが代表をしている会社です。小祝さんの技術指導がベースになり、生産性が飛躍した農業法人は国内に多々あります。
先月より、自分たちで全ての畑の土壌解析に取り組みはじめました。土の成分と状態を数字で読み取ることで、作物にとって健全な肥料設計ができます。また畑の土の状態を表す数字は、生じた問題の要因が何かを考察する一つの重要な材料となります。冒頭で紹介したダイコンサルハムシにやられてしまっただいこんも、明確な理由があるわけです。たまたまたダイコンサルハムシがやってきたわけではないのです。
元木さんの来社は、解析手法や数字の捉え方など、基本的なことから応用編までしっかりレクチャーいただくことが目的でした。
オフィスでのレクチャーのあと、畑でも実際の作物を前にレクチャーを受けます。
作物の根、茎、葉などの細かな変化、状態から、実際に何が今土壌と植物内で起きているのか? 驚くほどの元木さんの洞察力と知識量にスタッフ一同驚きながらも、必死で食らいついていきます。
にんじん畑では、葉を一枚一枚並べて、生育の違いや考え方を丁寧に教わりました。
生理障害が生じただいこん畑では、問題を抑制する土の準備や考え方を、
白菜畑では、葉っぱ一枚一枚の表情から、何が起きているのか、何が原因なのか、読み取り方や考え方を学びました。
まだまだ技術的に未熟な僕たちに、本当に丁寧に分かりやすく説明してくださる元木さんに心から感謝です。
自分たちが悶絶し苦しんでいた問題が、少しずつではあるものの明確に、理論的に捉えられていく瞬間は、絶望の淵から一筋の光が見えるような希望を抱かせてくれます。
有機農業は恐るべき生産性と可能性を秘めた農業であると同時に、様々な科学技術の結晶であることを改めて痛感しました。
元木さん、今後ともよろしくお願いいたします。