大切なご報告(2018年版)

徳本です。

2018年も早や5月。すでに本格的な農繁期が始まっていますが、今年、僕たちは非常に大きな決定を行いました。本稿では、この大きな決定、つまり僕たちがこれまで採用してきた農法と今年以降のそれとの大きな違い、変更点について説明したいと思います。

トゥリーアンドノーフの事業の目的

最初にあらためて共有しておきたいのは、トゥリーアンドノーフの事業を通じて、僕たちが何を成し遂げたいか、です。

私たちのこと」にも書いていますが、大きな目的は「一人でも多くのお母さんと子どもたちに、安全で美味しい野菜を届ける」こと。

この目標の実現のためにトゥリーアンドノーフを立ち上げ、奮闘してきた中で気づきました。

この目標のためには「大規模化」、そして「次世代へと繋ぐことのできる、生産性と持続性の高い農業の実践」が重要になってきます。

有機農業は目的を達成する手段

これまで、僕たちが取り組んできのは有機農業です。

今後も原則としてこのスタンスは堅持しますが、しかし、有機農業を実践することそのものが僕たちの最大の目的ではありません

つまり、有機農業に携わることができれば、野菜が思ったように生産できなくても仕方ない、売上が上がらなくて給料が少なくても仕方ない、最悪事業を止めなくてはならないのも仕方ない、ではないということです。

事業としての有機農業は、高い生産性と持続性を持つものでなければなりません。そのためには、当然、適正な利益を出し続け、ステークホルダーとの共存共栄を図っていく必要があります。

必要に応じて化学合成農薬を用いる

僕たちは今年、つまり2018年の生産から、栽培手法における選択肢を拡大することにしました。

すなわち、有機的管理(有機JAS適合資材)では抑えきれない「大きな問題」が生じる予兆が見られた場合、必要最小限の化学合成農薬を限定的に使用する、この可能性を完全には否定しない、ということです。

では、「大きな問題」とは具体的にどんな状態でしょうか。

昨年6月に起きたアブラムシによる被害を例としてご紹介します。

干ばつが続き、アブラムシが大発生しました。発生後、わずか1週間足らずで1ヘクタール以上の畑の小松菜が、ほぼ全滅しました。有機JAS適合資材での防除、高水圧での洗浄防除など、あらゆる手段を試しましたが、全く抑制する事ができませんでした。精神的、肉体的なダメージのみならず事業的、経営的な損失は甚大でした。

この時、適切なタイミングで合成化学農薬を使用していれば、被害の程度はかなり小さくなっていたと考えています。

なぜ使うのか

最初に書いたとおり、僕たちの目的を達成するためには、「次世代へと繋ぐことの出来る、生産性と持続性の高い農業の実践」が必要となります。

生産性の高い農業とは、最小限のリソース(資源や投下労働時間)で、最大限の収穫物を得ること。これには、面積あたりの収穫量を向上するだけでなく、農地を拡大し大規模に営農する必要があると考えています。

持続性の高い農業とは、過度に環境に依存せず、負荷を与えず、自分たちの農業活動が、近隣環境の資源の循環の一部となることで持続的に活動できるようにすること。また、ビジネスとしての持続性も非常に重要です。

そして、失敗し過ぎないことが大切です。

失敗にも様々ありますが、次の栽培に対して明確な改善策を講じることができなければ、そこに費やした時間、労力、お金を全て無駄にしたと考えることができます。

これまでブログで明らかにしてきたとおり、僕たちは数多くの失敗を繰り返してきました。先ほど例に挙げた、病害虫で全滅した畑ですが、当時の僕たちの経験や知見による有機的管理では、有効な対策を講じることができませんでした。

もちろん、あらゆる活動に対して仮説を立て事後検証を行いますので、失敗のたびに多くを学びます。

昨年6月のようなアブラムシ被害を防ぐため、株間の調整、マルチング、成虫飛来密度を抑える畝間や畦畔の除草の徹底といった対策を、今年から講じています。

このように、僕たちの経験や知見は確実に積み上がっており、有機的管理でも昨年のような壊滅被害まではいかないと考えています。

しかし、農業は自然の中で行う事業ですから、天候の影響など不透明なところも残ります。

そして今後もより大規模化を加速させていきますので、取引先をはじめとするステークホルダーに対する責任も大きく重くなります。失敗をできるだけ減らし、安全で美味しい野菜を安定的に出荷することが、より求められるわけです。

以上のことから、今回の方針転換、決断に至りました。

僕たちが取り組んでいるのは事業としての農業であり、「大規模な有機農業」という実験ではないからです。

化学合成農薬は「悪」か

一部の農業家からは、化学合成農薬や化学合成肥料を絶対悪とした、極端な二元論で否定する声も聞かれます。

しかし、なにごとにおいてもそうですが、頭ごなしに否定・拒絶することは、間違った結果へとつながる可能性があります。事実に基づかない二元論や、客観性を欠いた感情的な他人への批判だけでは、何も生まれません。

確かに、過去には化学合成農薬が社会問題化したり、実際に人畜に害を及ぼしたケースもあります。

しかし現在の製品は、そうした経験を学びとして、専門メーカーが膨大な時間と研究開発費を投じ、エビデンスを積み上げ、安全性を確認してきたものです。

僕たちはどこまで理解したうえで、化学合成農薬を生産活動から排除してきたのでしょうか。「何だか体に悪そうだ」とイメージし、それを使わないことで「安全」と謳ってきたのではないでしょうか。

今後、トゥリーアンドノーフの栽培で、状況によっては化学合成農薬の使用を排除しないという決断をしたからには、当然、使用する製品についてしっかり調査・研究し、メーカーとも情報や知見を共有しながら、事業の目的との関係性をしっかり考え、判断しながら取捨選択、実行していくつもりです。

そのうえで、本当の安全とは何で、消費者の安心とは何なのかを発信し続けていきます。

一番大切な「安全性」とは何か

では、僕たちが考えるべき、食の安全性とは何なのでしょうか。

食の安全性を問ううえで、農法を語る前に徹底すべき重要な要素があることに、僕たちは気づきました。すなわち、

  1. 整理整頓
  2. 衛生管理
  3. 人を大切にする

の3つです。

このうちの一つでも欠落すれば、自然農法、有機農業、慣行農業、生産手段は何であれ、農作物の品質と安全性が低下するリスクが生じます。

1.整理整頓

「整理整頓」は、事業を行う企業のみならず、家庭においても大切にされていることだと思います。一般家庭においても、「食」を扱う台所や食堂が整理整頓されていなければ、清潔に保つことは難しくなります。二点目である「衛生管理」に直結しますし、生産性の向上や、スタッフが作業するうえでの安全性にも関係する、とても大切な点であると考えています。

2.衛生管理

収穫した野菜を出荷するための洗浄や袋詰めの作業中、トイレに行き、適切に手を洗わないまま作業に戻ったとします。衛生管理が徹底されている飲食店や食品工場などではありえない行為ですが、「衛生管理」がきちんとマニュアル化され、スタッフが正しく理解し、実践している農作業の現場、実は少ないのではないでしょうか。これでは、消費者に食材を提供し対価を得るプロの生産者とは言えません。

3.人を大切にする

人、つまりスタッフを大切にせず、ないがしろにすれば、自発的・能動的に「良い仕事をしよう」という気持ちは生まれません。トゥリーアンドノーフで働くことに誇りを感じ、好き、楽しいと感じながら働いてもらえるように、会社側も誠心誠意、環境や条件を整える。これによって、「自分の作業は、消費者の食に関わる仕事だ」という責任感と当事者意識が生まれ、結果として、食の安全性が高まると考えています。

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「食の安全」について、こうした基本的な事項を確実に踏まえたうえで、自分たちが野菜の生産に使用する肥料、資材などを徹底的に調査し、安全性を確認したうえで使用する。そしてそれをきちんと公開(*)し、なぜ使用するのか、なぜ安全と言えるのかをきちんと説明する。

これが、僕たちが考える「食の安全」に繋がる考え方、行動です。

僕たちは、もっともっと大規模に

戦後の政策が色濃く残る国内農業は過渡期を迎えています。今後の発展、というよりも、国内農業の継続には、パラダイムシフト(*)が必要です。

次の世代の視座から現在の状況を見定め、直ちに行動をおこさなくてはいけません。

そして、他業種では当たり前の競争原理が適切に働くことも重要です。

僕たちは「次世代へと繋ぐことのできる、生産性と持続性の高い農業の実践」を目標としていますが、持続性、つまり農業をビジネスとして続けていくには、競争力が必要です。

では、この競争力を得るには、どのようにすればいいのか。

これはそれぞれの農業家、経営者の判断となりますが、僕たちは「大規模化」という答えを見出しました。

これまで国内では100ヘクタールくらいになると大規模とされてきました。しかし、離農者が急激に増え、農地が流動しはじめているいま、1000ヘクタール規模で生産体系を設計し、売り上げも0(ゼロ)を2つ、3つ増やした計画が必要です。いや、むしろ、そうでなければ生き残ることはできません。

スケールあるビジョンがなければ、日本の農業に技術革新は起きませんし、投資家は振り向きもしないからです。

もちろん法整備についても、これまでのような単なるバラマキや保護政策ではなく、農業界への投資や人材育成を促すものでなくてはなりません。

「安全で美味しい野菜をつくる」は当然のことですが、今のままでは早晩、日本の農業はダメになります。これまで農業ではあまり考えられていなかった、「高い生産性と持続性」をもった新しい農業が必要なのです。

トゥリーアンドノーフは、2018年も、挑戦し続けます。

* 通常使用する資材や肥料に加えて、本稿で触れている「使用する可能性のある化学合成農薬」については、「栽培方法」のページに記載します。
* パラダイムシフト(paradigm shift):その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。パラダイムチェンジともいう(出典:wikipedia


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。コメで世界を獲ったるで!(詳しいプロフィールはこちら)

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