僕たちが「今更」お米をつくる理由(後編)

徳本です。

なぜ僕たちが「今更」お米をつくるのか、その理由を2回に渡ってお伝えする記事、「僕たちが「今更」お米をつくる理由」の後編をお送りします。

前編では、以下の4つのポイントのうち、3つまでをお話ししました。

  1. 適地適作
  2. 大規模化と時流
  3. ITとロボティクスの導入、自動化
  4. 品種と技術

後編となる今回は、残る一つ、「品種と技術」について書いていきます。

お米の品種や栽培技術については非常に複雑で、日本を代表する農産物で長年国から保護されてきたこと、法律や制度と巨大な組織などが絡み合って、簡単に説明できることではありませんが、そんな中で僕たちが何を武器として戦っていくのか。

この記事では、米の「品種」と「栽培技術」の2つの項目に分けて、説明していきたいと思います。

米の品種

「米の品種」と聞いて、みなさんはどのような米を想像するでしょうか?

コシヒカリやあきたこまちなどの有名な米の名前を思い浮かべる方も多いと思います。

日本国内で栽培されている米(うるち米)の品種は、2019年現在、300近くあります(文末に一覧を掲載しています)。

これほど多くの品種があるなかで鳥取県が奨励品種に指定しているのは「ハナエチゼン」、「コシヒカリ」、「きぬむすめ」、「つや姫」のわずか4品種です(2018年度)。

奨励品種とは

「奨励品種」は、主要農作物種子法(以下、種子法)を根拠として、都道府県が各地域での普及を目的に選定した米。その種子を管理育成して、安全且つ安価に生産者が使用できるように供給されてきました。

この種子法は2018年4月に廃止されました(廃止によって食の安全性に関する議論が巻き起こりましたが、この記事ではその論点には触れません)。

種子法は、戦後の食糧増産という国家的要請を背景に制定された法律です。廃止の理由を農林水産省は、

  • 種子生産者の技術水準の向上等により、種子の品質は安定。
  • 農業の戦略物資である種子については、多様なニーズに対応するため、民間ノウハウも活用して、品種開発を強力に進める必要。しかしながら、都道府県と民間企業の競争条件は対等になっておらず、公的機関の開発品種が大宗を占めている。
  • 都道府県による種子開発・供給体制を生かしつつ、民間企業との連携により種子を開発・供給することが必要

と説明しています。

ここで僕たちが特に重要だと感じているのは、「民間企業」に関する部分です。

民間品種

民間企業が研究開発した米の品種を「民間品種」と言います。

民間品種には、多収量で食味の良い「みつひかり(三井化学)」や「しきゆたか(豊田通商)」、低アミロースで冷めても食味が良い「夢ごこち(三菱化学)」など、高品質・多収穫・高耐病性の品種が多数、存在します。

しきゆたか(豊田通商)
栽培中の「しきゆたか」(1つの穂に240粒前後の粒数が。通常は100前後)

実は種子法は1986年に改正され、こうした民間品種が参入できるよう法整備されたのですが、実際には公的機関が定める奨励品種が流通する米の多くを占めており、また都道府県が民間品種を奨励品種として採用することは極めてまれです(岐阜県の「みのにしき」のみ*1)。

奨励品種以外の品種は種もみが物理的に手に入りにくいうえに、栽培に必要な情報が不足している場合もあり、結果として多くの生産者は、奨励品種から生産する米を選ぶことになります。

種子法の廃止は、米の栽培に関するこうした状況を変えるキッカケとなることが期待されています。

生産者や消費者のなかには、「別に今のままでもいいじゃないか? 何も困っていないし」と考える人もいると思います。

ですが、僕たちのような生産者にとっては、奨励品種に加えて民間品種を選択、生産できるほうが、品種によって栽培工程の時期をズラしたり、マーケットのニーズに応じた生産計画を立てたり、より耐病性の高い品種を選定することで昨今の異常気象に対してリスクをヘッジするなど、生産性や経営面から見てもメリットが大きくなるわけです。

大規模化による自前設備が必須

しかしながら、種子法の廃止だけでは現状はなかなか変わらないと考えています。

理由のひとつとして、JAなどが運営するライスセンターは、効率性等を理由として、奨励品種しか受け付けないという点があります(*2)。

ライスセンターは、収穫後の米の乾燥やもみすり、選定や袋詰めなどをするための施設で、自前設備を持たない米農家は、ライスセンターを通さなければ出荷することができません。

僕たちが民間品種を栽培したとしても、ライスセンターは僕たちの米を受け付けてくれないのです。

JAが運営するライスセンター以外の施設を頼って出荷できる状態までこぎつけたとしても、希少な品種に関心を持ち、少量だけでも受け付けてくれる卸、問屋、小売店が必要になります。こうした企業はほとんど存在しないと思われます。

つまり、民間品種という選択肢をとるには、大規模に栽培して一定量以上の収量を確保し、ライスセンターや貯蔵庫のような設備を自分たちで建て、流通経路も自分たちで開拓する必要があるわけです。


イカリファーム(滋賀県)の自社設備

僕たちが「今更」お米をつくる理由(前編)」でも語ったように、大規模化は米で儲けるための必須条件だと考えていますし、僕たちの方向性と一致します。また、販路開拓は元バリバリの営業マンであった僕がもっとも得意とする分野

米で儲けるための条件や強みに一致するわけです。

米栽培の技術

前編で詳しく書きましたが、水田整備のIT・ロボティクス化、GPSにより均平化や畦塗りといった重要な作業の精度が飛躍的に向上するなど、米栽培ではテクノロジーの進化が劇的に進んでいます。

これは米という作物のマーケットが、その他の野菜(例えば小松菜など)のそれと比べて桁違いに大きいので、投資予算や人材が大きく、開発・発展の速度が早いということです。

つまり今後も、米を栽培する技術や機械化はより進んでいくことが期待でき、より作業効率性は高まっていくはずです。

こうした、米を栽培する生産者全体が被る恩恵とは別に、僕たちには強い武器があると考えています。

野菜栽培で培ってきた技術と知見

詳しいことはここには書けないのですが、僕たちが野菜で取り組んできた科学的視点での肥培管理を稲作に応用することで、同じ品種でもより食味が良く、さらには収益性を高めることができると考えています。

また、直播にも挑戦していきたいと考えていますし、そのほかにも新しい技術や手法にどんどん取り組んでいくつもりです。

これは稲作の新参者であるためサンクコストや固定観念がなく、また思考が柔軟でフットワークの軽い若いスタッフが集まっているトゥリーアンドノーフの強みでもあります。

世界的な問題の解決に取り組みたい

さて、最後に少し徳本の個人的な考えを2つほど述べたいと思います。

僕は農業という仕事を通じて、可能な限り世界的な問題に対してアプローチし、解決できるよう努力していきたいという気持ちがあります。

その問題とは、「食糧難」と「水不足」です。

食糧難

少子高齢化が加速度的に進み、数十万人単位で人口減少が進む日本とはうって変わって、地球規模では爆発的に人口が増えています。今世紀の中頃には100億人を突破するとの推計もあります(*3)(2019年時点では77億人)。

人口が増加した世界で懸念されているのは、深刻な食料不足です。

2019年現在でも、10億人近い人たちが食糧不足に直面しています(*4)。食料生産と供給の体制が整わないまま人口が100億人まで急激に増えた場合、食糧不足という問題が今よりも大きくなることは、火を見るよりも明らかです。

世界的な食糧不足が続けば、栄養失調で苦しむ人や餓死する人の大量発生に加えて、食料品の価格高騰、紛争など、深刻な問題が生じる可能性があります。

米はそうした問題に対して一つの解決策になるのではないかと考えています。

米は穀物なので長期貯蔵もできますし、出輸も可能。日本がリードするかたちでゲノム解析も進んでおり、世界の様々な気候風土に適した米の品種開発も進んでいます(*5)。

トゥリーアンドノーフもまずは日本国内でトップレベルの規模で稲作を展開し、その後、世界に出てさらに規模を拡大、世界的な問題に対してトゥリーアンドノーフなりのアプローチをしてきたいと考えています。

水不足

もう一つ、世界的な問題として「水(淡水)の不足」があります。

2019年現在、世界の人口のおよそ4人に1人、約20億人が安全でない水を飲料水として用い、健康に小さくない影響を受けていると報告されています。国連も『国際行動の10年「持続可能な開発のための水」』というイニシアチブを1980年から推進していますが、課題の肥大に追いついておらず、悪化し続けています(*6)。

一方、日本は水資源の豊かな国です。すべての都道府県に水田が広がり、水路が整備され、天然資源として水が潤沢に使用できる日本の環境は、世界的に見ても稀有です。

こうした環境を最大限に生かして、1000年、2000年つくり続けても連作障害が起きない米という農産物をつくり、水が不足して農産物を自給できない地域に供給することは日本の責務であるとともに、米農家にとっては大きなビジネスチャンスでもあると考えています。

*1 岐阜県「主要農作物(水稲・麦・大豆)の奨励品種について
*2 JA岐阜のように、戦略的に民間品種を取り扱って輸出や業務用向けを強化し、国内の主食米用の消費が落ち込むなか過去10年で2倍近く米穀販売高を伸ばしているJAもあります。
*3 国際連合広報センター 「世界人口推計2019年版:要旨 10の主要な調査結果
*4 Food and Agriculture Organization of the United Nations
*5 国立研究開発法人 農業生物資源研究所 「イネゲノム塩基配列と 新たな作物開発への挑戦
*6 国際連合広報センター 「水の国際行動の10年 – 2018-2028 世界的な水危機を回避するために

参考記事
・衆議院 主要農作物種子法
・農林水産省 主要農作物種子法を廃止する法律案の概要(PDF)
主要農作物種子法廃止の経緯と問題点-公的種子事業の役割を改めて考える- (PDF)
・Grow Ricci 「農作物におけるし奨励品種とは?種子法の影響は?
・Tanet(たねっと) 「主要農産物種子法廃止法施行後の措置に関するアンケート(2)
・日本モンサント 「日本モンサントにあるよくある質問
・Food Watch Japan 「民間育成品種がコメ流通を変える

日本国内で栽培されている米(うるち米)の品種一覧:
あいちのかおり、愛知123号、愛のゆめ、あかね空、赤むすび、あきげしき、あきさかり、あきたこまち、秋田63号、あきだわら、アキツホ、秋音色、秋の詩、秋のきらめき、あきのそら、アキヒカリ、あきほなみ、あきまさり、あきまつり、あきろまん、アケボノ、朝の光、朝日、あさひの夢、あさゆき、彩、彩南月、あやひめ、あわみのり、淡雪こまち、イクヒカリ、いただき、一番星、いのちの壱、いわてっこ、うこん錦、越南291号、えみのあき、笑みの絆、エルジーシー潤、LGCソフト、縁結び、おいでまい、オオセト、大粒ダイヤ、おきにいり、おてんとそだち、おぼろづき、おまちかね、おわら美人、かぐや姫、かけはし、風さやか、亀の尾4号、亀の蔵、華麗舞、きたくりん、北瑞穂、キヌヒカリ、きぬむすめ、吉備の華、京の輝き、キヨニシキ、きらほ、きらら397、きらり宮崎、きらりん、金のいぶき、きんのめぐみ、金光、吟おうみ、銀河のしずく、ぎんさん、くまさんの輝き、くまさんの力、黒むすび、元気つくし、げんきまる、こいごころ、恋の予感、こいもみじ、黄金錦、黄金晴、こころまち、こしいぶき、越路早生、コシヒカリ、五百川、ゴロピカリ、金色の風、さいこううち、彩のかがやき、彩のきずな、彩のほほえみ、彩のみのり、さがびより、さきひかり、ササシグレ、ササニシキ、さち未来、さとじまん、里のゆき、里山のつぶ、さぬきよいまい、さわかおり、さわのはな、さわぴかり、春陽、新生夢ごこち、新之助、スノーパール、晴天の霹靂、せとのにじ、千秋楽、そらゆき、大地の風、大地の星、たかたのゆめ、たかねみのり、たきたて、たちはるか、だて正夢、たんぼの夢、ちほみのり、ちゅらひかり、チヨニシキ、つがるロマン、ツクシホマレ、つくしろまん、つくばSD1号、つくばSD2号、つぶぞろい、つぶゆき、つやおとめ、つや姫、出羽きらり、でわひかり、てんこもり、天使の詩、てんたかく、天のつぶ、天竜乙女、東北194号、とがおとめ、土佐錦、とちぎの星、トドロキワセ、とねのめぐみ、どまんなか、トヨニシキ、とよめき、どんとこい、どんぴしゃり、中生新千本、和みリゾット、なごりゆき、なすひかり、なつしずか、夏の笑み、ナツヒカリ、なつほのか、ななつぼし、鍋島、南国そだち、にこまる、日本晴、ねばりゆき、農林1号、農林48号、能登ひかり、ハイブリッドとうごう3合、はいほう、はえぬき、はぎのかおり、ハツシモ、ハナエチゼン、花キラリ、はなさつま、はなの舞い、はるみ、晴るる、ヒエリ、ヒカリ新世紀、ヒカリッコ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、姫ごのみ、ひゃくまん穀、兵庫ゆめおとめ、ふくいずみ、ふくのいち、ふくのさち、フクヒカリ、ふくひびき、ふくまる、ふくみらい、ふさおとめ、ふさこがね、ふっくりんこ、ホウレイ、北陸193号、ほしじるし、ほしのゆめ、ほしまる、ホシユタカ、ほっかりん、ほほえみ、ほほほの穂、ほむすめ舞、まいひかり、まいひめ、まっしぐら、松山三井、祭り晴、まなむすめ、三重23号、みえのえみ、みえのゆめ、みずかがみ、瑞穂黄金、ミズホチカラ、みずほの輝き、み系358、みつひかり、みどり豊、ミネアサヒ、みねはるか、みのにしき、実りつくし、ミルキークイーン、ミルキーサマー、ミルキープリンセス、むつほまれ、紫の君、むらさきの舞、めんこいな、萌えみのり、森のくまさん、山形95号、山形112号、やまだわら、やまのしずく、ヤマヒカリ、ゆうだい21、ゆかりの舞、ゆきおとめ、ゆきさやか、ゆきの精、ゆきのはな、雪の穂、ゆきのめぐみ、ゆきひかり、ゆきむすび、ゆきん子舞、夢一献、夢いっぱい、ゆめおうみ、ゆめおばこ、ゆめかなえ、夢ごこち、ゆめさやか、夢しずく、ゆめしなの、夢つくし、夢の華、ユメヒカリ、ゆめひたち、ゆめぴりか、ゆめまつり、ゆめみづほ、夢みらい、レイホウ、レーク65、わさもん(以上、274品種。2018年時点)


徳本 修一

トゥリーアンドノーフ代表取締役。消防士、芸能マネージャー、歌手活動を経て、子どもたちがおいしく安心して食べられる野菜を作るため鳥取に帰郷しトゥリーアンドノーフを発足。おいしい野菜を作るぞー!(詳しいプロフィールはこちら)

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